ストリップ劇場従業員日記  (じじい猫の日記より抜粋)

はじめに

 これは日記です。とうぜん踊り子に関する記述などは、ぼくの主観で書かれています。すべてをうのみにしないでください。この中に登場する踊り子の多くはすでに引退し、もう時効であろうと考え発表することにしました。
 本文には<PRE>タグを使用しています。ソースを使いなれたテキストエディタなどで読むと、楽だと思います。





1994年



3/11(金)

 渋谷道頓堀劇場に電話したらジイさんぽいのが出て、今日は初日でドタバタしてい

てダメだとのこと。明日の午後に来いとのこと。俺の調べで影山莉菜はこの十日間は

別の劇場に出張でいないはずだ。影山莉菜にあう10日後には多少仕事に慣れている

ことだろう。



3/12(土)

 昼過ぎに面接に行く。モギリのおばさんに従業員の面接で来ましたと言ったら、観

客が

「従業員…コソコソ」とざわめいて恥ずかしかった。外で待たされ、やる気の無さそ

うな辛気臭いオヤジに連れられ、はじめてとなりの入り口から中に入る。結局社長が

来る5時にまた出なおしてくれとのこと。5時までお茶缶のアンケートに答えて図書

券をもらったり本屋で立ち読みしたりして時間を潰す。誰が誰だかわからないが、男

5〜6人と顔をあわせ、面接してもらう。給料は15万円ぐらい。仕事が深夜に及ぶ

こともままあるという。辞める時は2ヵ月前に報告してくれとのこと。支配人は、  

「踊り子と関係すれば即刻クビだ」と厳しい表情で言った。踊り子とデキて逃げてし

まうなんていかにもありきたりの話だが、実際よくあるのだろうか。もしかしたら踊

り子はみんな社長の女という案配なのか?ともかく給料が思ったより少なすぎる点以

外は、だいたい想像したとおりの仕事のようだ。面接で家の家賃を訊かれた。こうい

う場合はだいたい賃金が少ない。とりあえず今日は面接のみ。本当は1ステージだけ

照明室の後ろで見せてもらう予定だったのだが、たぶん今日一日の賃金を出し惜しむ

社長の策だろうか? ここの社長はかなり金払いが悪そうだ。先が思いやられる。定

期を買って帰る。明日から出社だ。そこそこ頑張ろう。頑張りすぎて疲れないように

しよう。給料程度の仕事をしよう。余力を小説に向けよう。





モギリのおばさん

3人いた。その中の一人は、昔踊り子だった、とコントの池田くんが言っていた。





3/13(日)

 非常に疲れている。あまり書く時間もない。まず仕事に失望した。というより結果

が完全に見えている。甘い希望の入り込む余地もない。ビデオ制作と違い毎日が同じ

事のくりかえしになりそうだ。朝10時30分の掃除から夜11時30分の掃除まで

拘束時間が異様に長い。休憩中も針のムシロに座っているようだ。好きでなければや

れないというがおれはストリップがもの凄く好きというわけでもない。とにかく慣れ

るしかないのだろうが、せめて休憩中に小説を書くぐらいのゆとりがほしい。今は無

理だが、慣れたら小説のことを言うつもりだ。失望の第二は人間だ。思ったとおりの

人々というか…。ストリップの従業員というのはこういものなのか?なんか諦めきっ

てる感じだ。感情を出すのは怒る時だけだ。もう一人やっかいな激情型指導の人もい

る。後はまともだろうと思う。

 踊り子にも失望した。やはり女はただの女だった。

 お先真っ暗な気分だ。面倒だ。給料が低すぎる。おいしいところは何もない。だが

夏過ぎる頃までは続けてみよう。照明は面白そうだ。



3/14(月)

 慣れた。急速に仕事のやり方を吸収している。現在仕事の5%ぐらいは把握したと

思う。とにかくできる雑用からどんどんやる。今日は照明だけでなく舞台袖も少し手

伝った。慌ただしい。タイミングが全てだ。うっかりすると進行がズタズタになって

しまう。狭い舞台ソデで幕の開閉、切れたライトの交換、舞台セットの撤去、搬入な

どをする。小道具が紙切れ一枚無くても踊り子や観客に迷惑がかかる。特にトリの舞

台は殺人的タイミングだ。今回は矢沢裕未さんというのが「高橋お伝」というおどろ

おどろしいものをやっている。小道具が多い。発砲スチロールでできたお地蔵さんな

どもある。

 照明は見ているだけだ。さすがに2回も続けて照明室で見ているとボケーとなる時

がある。今日はじめて会った片山さんが親切にいろいろ教えてくれた。しかし照明係

がスモークも出し音楽テープも担当しているとは……。暗転中のスイッチング作業は

これまた殺人的だった。相当にスザマジイ作業だ。ファミーでビデオ編集卓を叩きま

くっていたことを思い出す。

 劇場の人間には慣れてきた。浜名、今林、清野、池田、岩井、片山、小坂、まだ見

ぬ社長、もう一人の漫才師さんなど。

 踊り子に対しては必要以上に距離を置いている。挨拶をする程度。無理に笑顔でや

る事もないだろう。気持ち良く仕事はしたいが、従業員の立場もある。ただ踊り子を

光で飾る男にとりあえずなろう。1時間の休憩はあるので、ある程度仕事を覚えたら

劇場にオアシスポケットを持ち込む予定。





従業員の仕事開演前の仕事は、エアコンのフィルター洗い、看板をだして洗剤でふく、

劇場前を掃いて道に水をまく、舞台の上をモップでふく、8トラデッキ6台のヘッド

をアルコールでふく、音のチェック、照明のチェック、などだった。終演後は場内を

掃除し、舞台の上のワックスがけ、照明のチェックなどをした。そのほかにも無数に

雑用があった。





3/15(火)

 早朝掃除、照明室手順も覚える。きのうタレントプロダクションの石井ミツゾウさ

んが来たが、今日はTBSスタッフ引き連れ、コント赤信号の渡辺氏がコントの取材

で来る。星ひかる撮影する。前半2回はまた片山さんと照明。AVの身の上話などす

る。アニメのセーラムーンをやっている永井一葉はすごくイライラしていた。踊り子

には失望する点が多い。歳若い女に怒鳴られ、口答えもできず働いている従業員の自

分が惨めに感じることもある。自尊心を傷つけられる。照明は面白そうだが俺は嫌わ

れる照明屋になりそうだ。





コント赤信号コント赤信号は道劇が産んだコメディアンである。渡辺氏、ラサール石

井氏、小宮氏の3人の中で、はじめは小宮氏がリーダーであったらしい。今では小宮

氏だけがパッとしないようだが、がんばってほしいな。





3/16(水)

 順調。ワープロ持ち込み開始。休憩時間に喫茶店で小説書きはじめる。拘束時間の

長過ぎる仕事だが、仕事が終わると時間の無駄を惜しんで洗濯、食事、執筆をする。

今日は踊り子が途中で腹をこわしてテープを差し替えたり、新人の踊り子が続けて2

回出演したり、コントが何回も出たり大変だった。ライブというのはNGが効かない

だけに恐ろしい。明け方4時まで小説やるつもり。



3/17(木)

 トラブルなし。仕事が無く動けないので、照明の配置ノートを読んでいたら浜名さ

んに注意された。「板付き」という、じっとしているだけの仕事とのこと。ただ何も

していないような仕事だが、舞台は絶えず動いていて、他人ごとではないということ。

やることが無くて、仕事は誰かがすぐやってしまうので座っているしかなかったのだ

が、それではダメなのだ。浜名さんは相当複雑な人生を生きてきた人らしい。俺は舞

台を作っているという意識を忘れていたようだ。



3/18(金)

(1)浅見しずか……大きい女。大人のムードで暗い曲が好き。

(2)紺野尚子……舞台と普段のギャップが大きい。舞台では細々動いてかわいい。

(3)夢丘葵……新人。踊りもまだうまくない。しかし花束は多かった。

(4)星ひかる……舞台も普段も同じ感じ。明るい人。

(5)山瀬○○……踊りの師匠。注文がうるさいらしい。

(6)水沢ルイ……水商売っぽい感じ。大きくボリュームのある肉体。

(7)永井一葉…ロリータの売りだが狷介な性格でちょっとおかしい。剃毛してピアス。

(8)矢沢裕未…「希代の毒婦、高橋お伝」演技力もあるし可愛いし性格もよい。

       仕事は尊敬に値する。清楚で、甘えず、毅然としている。



3/19(土)

 なかなか照明覚えられず。ピンを当てても外れたりして緊張する。とくに専属の星

ひかるの照明をやらせてもらったので緊張する。かわいい感じの娘。トリの矢沢裕未

さんなどの照明は絶対にできそうにない。難しすぎる。

 俺は踊り子に対する接し方がどうもわからない。従業員というのは辛い立場だ。と

にかく距離を置くようにしている。紺野尚子の踊りは素晴らしい。一番輝いてみえる。

けっこう歳をとっているらしいが、舞台の構成、音楽、なにより踊りがかわいらしい。

照明も赤い奴(ミニブルというらしい)がゆっくり点滅して物凄くかっこいい。

 永井一葉はテレビでみたことがあるがものすごく可愛い人である。踊りより演技力

で見せている。しかし楽屋では荒れている。舞台ソデに近づくと怒るので、近寄らな

いようにしている。





永井一葉

あとで聞いた話ではこのとき水沢ルイとケンカしていたらしい。いまでもテレビでよ

く見かけるがあいかわらずかわいいな。性格はおだやかになったかな?





3/20(日)

 最終日。(楽日というらしい)やっと一週が終わる。不愉快に思っていた踊り子が

ちゃんと挨拶して帰ったり、舞台の素晴らしさに感動していた紺野尚子が、こちらに

敵意のある感じだったりして複雑だ。帰り際に「じろじろみてんじゃねぇ」と言われ

た。本気で感動していたからつい見とれてしまったのに。もう、踊り子に個人的好意

を持つのはやめよう。帰り際、顔の浅黒い女が二人こっちをじろじろ見ていた。専属

の渚真琴と白石奈央だった。化粧をしていないのでまさか踊り子とは思わなかった。

「新しく入った人?」と聞かれた。挨拶しておいた。



3/21(月)

 初日。踊り子が来てから音楽テープを作成するのには驚いた。それに踊り子は練習

もなく、ブッツケ本番である。小道具や照明も、やりながら随時変更してゆく。まさ

に舞台は生物という感じだ。踊り子はトリの矢沢さん以外すべて変わった。

 (1)冴樹しおり (2)安田真樹 (3)氷室真由美 (4)渚真琴 & 白石奈央

 (5)沢口ともみ (6)桜木桃香  (7)矢沢裕未

 渚真琴の態度には閉口する。性格がキツい。いい仕事をしている奴だとは思うが。



3/22(火)

 舞台袖での仕事。いよいよ一人で責任持ってやらされる。トリの時、行灯にけつま

づいて大きい音をたててしまう。今日も電球のタマが切れたり、ゼラが外れて落ちた

りいろいろあった。照明はまだ一人では無理。かなりの練習が必要。小説も少し書く。

冴樹しおりは舞台ソデでウンコすわりでブスーッとしている。スケバン風だが踊って

帰ってくるとニコニコしている。踊りが好きなのだろう。



3/23(水)

 渚真琴が理由はわからないが舞台を途中で下りてしまう。わめきちらしていた。白

石よりプレゼントが少なくて腹をたてたのだろうか。白石は困ったような顔をしてい

た。冴樹しおり4回目出演前に階段で足首を挫いて焦る。沢口ともみは明るくよく話

しかけてくる。元自衛隊員でちょっと踊り子的体格ではないかもしれない。カンフー

みたいな踊りをやっている。桜木桃香は精神が完全に子供だ。矢沢の「高橋お伝」ラ

ストで蚊帳のセッティングを間違え焦る。



3/24(木)

 2回目から渚真琴が復活する。大部屋の誰かと何かあったらしい。おかげで従業員

部屋を渚真琴に占領されてしまう。廊下の椅子しか居場所がなかった。挨拶もしない

し不愉快な奴だ。あんな不愉快な表情で踊ってなんになるのか?踊り子としては失格

だ。裏方の仕事のほうはどんなにきつくても我慢できるが、渚真琴や白石奈央の投げ

たパンツを回収したりするのには抵抗がある。ひろわないと踊り子がひっくりこける

らしい。楽屋につまんで持っていったりするのだが、俺はなんの因果でこんなことを

やっているのだろうと思ってしまう。照明のほうは片山氏にサポートされて一人でや

ってみるがまだまだダメだ。





従業員部屋

3畳程度の部屋。いちおうテレビがあった。影山部屋のすぐとなりにあった。





3/25(金)

 給料4万円ぐらいかと思ってたら色を付けて10万円くれた。借金返済と家賃支払

いもできてものすごく助かった。渚真琴が「下の担当者誰なのよぉ」と大げさにわめ

いた。俺と知っててわめいている。稚拙なり。無視した。



3/26(土)

 今日は渚真琴に文句を言わせないように裏方の仕事を完璧にやった。「高橋お伝」

で地蔵が倒れるというアクシデント(思わず笑ってしまった)もあったがそれは自分

のミスではないので気が楽だった。裏方の仕事は今まで踊り子の裸を見ないようにし

ていたので踊り子の動きが掴めないでいたのだが、どうもそれでは仕事にならぬので、

やり方を変えて踊り子の側に常にいるようにして迅速に物事とに対処するようにして

いる。これから着る服、脱いだ服などを把握しないと仕事にならないからだ。

 裏をやっていると肝心の照明の勉強が早朝しかできないのが辛い。だいたいどんな

ライトがあるのか、どういう照明のパターンがあるのかなどわかってきたが、次の展

開への頭の切替えと、目的の照明をつけるための手の動きがとてもついていけない状

況である。

 客席で並んでオナニーしている2人のオヤジがいて「気持ち悪い」と氷室真由美が

言ってきた。事務所のチーフに報告したら、ビデオなら没収しなくてはならないが、

オナニーはしかたがないとのこと。支配人が「監督、オナニーぐらいさせてやれよ」

と笑っていた。なるほどと納得する。考えてみれば金を払ってるんだからオナニーぐ

らい踊り子にとやかく言われる筋合いはない。オナニーオヤジはときどきくる老人で

紙袋でカムフラージュしてモゾモゾやっているらしい。老人なのに偉大だ。オナニー

の件はさっそくコントのネタにされていた。ライトの玉が切れて2分ほどコントを延

ばしてもらったりいろいろあった一日だった。



3/27(日)

 照明は片山氏に隣についてもらってやるが、まだとても一人でできる状態ではない。

沢口友美は気遣いのできるいい娘だ。踊り子らしくない感じだ。専属の踊り子は生意

気な奴が多く、初対面の俺に対して失敬な態度をとるのが多い。腹が立つがどうしよ

うもない。連中が男なら速攻で殴っているところだ。連中は叱られるということがな

いのか自分自身に甘いように思う。踊り子は芯の強いしっかりした娘が多いだろうと

思っていたがぜんぜん違っていた。そこいらのガキ以下だ。AVの女のほうがまだよ

かった。踊り子には失望することが多い。



3/28(月)

 照明1回。まだ片山氏がついてないとできない状態。基本の「いるところに明かり

をつけ、いないところの明かりを消す」という作業が難しい。チーフの清野氏と東急

ハンズに壁紙、ベニヤ、丸い棒、艶消しブラックスプレー、両面テープなどを買いに

ゆく。次回の名鳥優「ナチスの女」の舞台セット用。ゼラを3種類の大きさに切る作

業などする。4回目は舞台袖で裏方。音楽を聞くだけで現在脱いでいる服がわかるよ

うになった。夜、片山氏といっしょに帰るが「踊り子と同じレベルに立たないほうが

よい」と言われた。彼女達はしょせん商品に過ぎないとのこと。



3/29(火)

 照明1回、舞台3回。舞台よりも照明の方が精神的に疲れるということがわかって

きた。ボンの上にいた踊り子が、気づくと花道を這っていたりして気が抜けない。渚

真琴と舞台裏でぶつかったら、向こうがニコニコしながら馬鹿丁寧にあやまってきた。

気持ち悪し。怒鳴ってるほうが似合っている。



3/30(水)

 照明1回。舞台3回。沢口の照明は楽しい気分になる。アニメ風の中国カンフー女

という感じが楽しい。しかし、照明の最中はいるところにつけて、いないところをけ

すという基本をやるのに必死だ。渚真琴が「このまえ怒鳴ってゴメンナサイ」とビー

ル2本持ってきた。冴樹しおりも急に生意気じゃなくなったし、新人の安田真樹もト

リの矢沢裕未もなんか優しい感じ。なんなんだこの変化は?まあなんとかこの女ども

の雰囲気にも慣れてきた。ただし、慣れすぎないようにしようと思う。

 芸人を目指して三浦くんという暗そうな人が来る。当初の俺のように居場所がなく

て困っている様子だった。長身であしたのジョーに出てくる力石のような奴なり。

 小説は毎日喫茶店で50分ほど書いている。いつもサラダとエスプレッソのオーレ

を注文する。終演後、ジョルジュ高橋さん達の稽古を見る。動きが激しくどんな照明

をやっていいのか想像もつかない。練習は厳しく、ジョルジュさんが女の踊り子さん

をビシビシ叱りながら稽古をつけていた。本当にプロなのだなと思った。片山、岩井

の両氏は照明のプランをバカ笑いしながら余裕で話している。掃除している時、今林

さんが影山莉菜には26才の恋人がいるような話をしていた。綺麗な踊り子だから男

の10人や20人いても不思議はないのだが、やはり、なんとなくガックリくるので

あった。俺は伝説の影山莉菜にスポットを当てたいがために道頓堀劇場にきたが、や

はり心の奥にある期待を持っていたのだろう。いい歳をして恥ずかしい話だ。俺は男

としても人間としても魅力が無い男なのだから、いいかげん子どもじみた夢想は捨て

るべきだ。





今林さん

このおっさんはいつも場内を怒りながら掃除していたので覚えている人もいるかもし

れない。いつも客に「どけっ!どけっ!」と言ってケンカを売っていた。





3/31(木)

 楽日。矢沢さんの事務所の社長がビデオ撮影するのに付き添う。照明もだいたいい

るべきところにつけて、いらないところを消すという作業はできるようになってきた。

裏方は今日は完璧だった。もう矢沢さんの高橋お伝が終わるかと思うと残念だ。初日

の準備のため2時ぐらいまで仕事。星、花岡の姉妹が稽古したりしていた。もうタク

シーで帰るのも辛いので泊まりにする。照明監督?の小坂さん、今林さん、コントの

剣持さん達と焼肉屋に行き死ぬほど食べる。その間、昨日突然上京してきたというコ

ント志望の三浦くんはキャベツを食って飢えを凌いでいたようだ。悲惨なり。帰って

からもう明日の踊り子たちの衣装がぶら下がっている大部屋で剣持さんと5時ぐらい

まで話す。今までの身の上話をした。彼もガードマンの経験があるようだ。芸人の話

がおもしろかった。





大部屋

ほとんどの踊り子が使う一番大きな部屋。踊り子が帰ったあとは、コント連中がここ

で寝ていた。





4/1(金)

 初日は裏に張りつきっぱなし。今までで一番疲れた。スピナーが回らない。ゼラが

変わってない。幕の開けしめのタイミングがつかめない。テープデッキが壊れた。と

にかく1、2回目は照明も裏も最悪だった。名鳥優は怒るし、こっちもチーフと怒鳴

りあいになるし。ジョルジュ高橋と立川リタさんの夫婦はホントにベテランで演技も

凄く、楽しい感じなので救われた。渡未来は糞生意気な奴だったが舞台は素晴らしか

った。舞台ソデでタバコを吸ったり、人のご尊顔に足を上げてきたりと挑発的なので

コンニャロウと思ったが無視していた。態度はむかつくが、舞台に対する姿勢はプロ

だった。衣装の下着が引っ掛かってボロボロになった。怒鳴られる。どうもずっとく

ょついていないとダメな踊り子らしい。風呂屋の番台じゃあるまいし女の着替えにく

っついていなければならんとは。一番気に入らないのはトリの名鳥優だった。あれは

ストリップじゃない。完全に劇だ。オープンで足を拡げないのはなんなのか?コント

の池田も同意見であった。





ジョルジュ高橋さんこの人は踊りの大先生である。踊りは素人がみても素晴らしくう

まいとわかる。とても穏やかな人柄の人だったが、練習のときは厳しかった。





4/2(土)

 渡未来と喧嘩する。生意気な女だ。あの女のせいで花岡舞さんのオープンでセット

の撤去が遅れる。上手階段付近を塞いでしまって幕を開けられない状況にしてしまう。

それで言ったセリフが「そんなの後でもいいでしょ!」だ。小学生並のワガママさだ

から、「馬鹿野郎」と思わず怒鳴ってしまった。その後、それに腹を立てたのか「衣

装を早くかたずけろ」だとかなんとかソデで言うので「早く行け」とまた余計なこと

を言ってしまう。結局、渚真琴の時と同じパターンで楽屋に行って大声で叫んだ。  

「従業員にどういう教育してるのよぉ」その時はコントの中でジョルジュ高橋さん達

の準備をしながらその声を聞き、(嗚呼、またか)と思わず笑ってしまった。結局、

チーフに諭され大部屋に行って一応あやまる。謝っても返事が無いので何度も謝った。

「今度から気をつけてくださいね」とかなんとか呆れたような演技で言っていたが、

チーフの配慮で今後はあの女のいない下手(しもて)を担当することにしたので、あ

の女には近づかないつもりだ。二度と叱ってやるつもりはない。とにかくこれだけで

はなく裏方の俺と浜名さんは4回すべてをほとんど出ずっぱりで進行しなければなら

ないので(2人以上でないとできない作業が多い)まる一日、飯もオチオチ食えない

状況だった。おまけにトリの舞台は3人以上の裏方が必要で、殺人的な舞台セッティ

ングだ。スピナーという回転ライトの玉が切れたり、倒れたり、接触が悪くてつかな

かったり、重いし大変だった。地獄の蒸し暑さにて水分5リットルは飲んだ。





スピナー

これは名鳥優の「ナチスの女」のときだけ使用した回転するライト。重くて倒れやす

く、ケーブルで4基がつながっているので厄介だった。ライトは25Vの直列なのに、

モーターは100Vの並列というのも変だ。直列だからひとつが切れると全部つかな

くなる。





4/3(日)

 4回目にはなんとかトリの仕込み以外一人でできるようになる。渡のイス出し忘れ

たりもするが。とにかく疲れた。次回からは休憩もできるようになるだろう。小説が

書きたい。



4/4(月)

 慣れた。曲も覚えてきた。名鳥の早変わりの時、舞台裏で、もしもの時のために名

鳥の着替えを見ていなければならない。俺に見せているのは緊急の場合に対してでは

なく、裏の格闘を誰かに見てもらって自分の真剣さをアピールしているようにも思え

る。一回目照明に久々に入る。もう忘れている。とにかく眠い。辛い。疲れて執筆は

滞る。



4/5(火)

 今日はチーフに手順を教えながらの作業なので結局一日中はりついてる感じで疲れ

た。最近みる夢は舞台の夢ばかり。朝は起きるのが辛い。小説はぜんぜんはかどらな

い。渡や名鳥など踊り子とのトラブルもなし。二人とも「ありがとう」の一言が出る

ようになった。名取は車のタイヤが2本外れたとかで一回目は遅刻。出演しなかった。

こういう時コントは役に立つ。



4/6(水)

 2回照明。1回裏方。照明の方がはるかに緊張し疲れる。白石奈央の暗転を間違え

たりテープを裏返しにセットしてしまってジョルジュさん達の登場を仕切りなおして

もらったり大変だった。



白石奈央……ショートパンツ姿の元気で可愛い踊り。

秋野くるみ…フラメンコ。アンバーの64ライトはこの人のためにある。妖艶な表情。

花岡舞……失敗ばかりのOLが夜、自宅の部屋でオナニーする話。

渡未来……踊りはうまいし華がある。人気も高い。輝いている。うるさい奴だが…。

ジョルジュ高橋&立川リタ……刺青の服を着て踊る。踊りが凄すぎる。優しい2人。

島田エリ……踊りはヘタ。明るい性格。笑顔はいいが不勉強だ。

星ひかる…演歌。町娘の踊り。オナニーの声が白々しく感じたりもする今日この頃。

名鳥優…ナチスの女。迫力はあるが露出度が低い。凄い美人のはずだがリビドーを

    感じないのはなぜだろう。





64ライト

本舞台横にある500ワットのでっかいライト。左右に2基づつある。基本はパープル 

だが、舞台袖からの差し替え自由で、赤、青、ピンク、生などのゼラに差し替えた。





 渡と名鳥以外の照明をやっている。名鳥はともかく渡の照明をやらないのは暗転が

難しいのと失敗したときウルサイため。渡にはスタッフを緊張させるものがある。舞

台袖でタバコを吸ったりするのが問題になっている。誰も注意できないのが情けない。

楽屋の灰皿も吸殻の山で、相当のヘビースモーカーのようだ。俺が叱るしかないのか。

ジョルジュ夫妻はゴンというパグ(ブルドックとチワワの間の子のようなおとなしい

犬)を連れ歩いている。賢い犬で楽屋で人気がある。ペットの持ち込みは禁止のはず

なのだが、職業柄やむを得ないし夫妻の人柄もいいので承認されているようだ。





渡未来

彼女はスタッフに恐れられていた。彼女が来る数日まえから「来週は渡がくるから気

をつけろ」と片山氏は言っていた。





4/7(木)

 照明2回。渡・名取以外をすべて一人でやる。昨日ほどの緊張はないが失敗はいく

つかあった。早く慣れたいものだ。裏は一回。

 来週には一人で照明をやらねばならなくなるのでここ数日が修羅場になりそうだ。

明日は渡未来の照明もやる予定だ。



【劇場の従業員に関するメモ】



浜名……まだ2、3ヵ月の人。ストリップ業界は長い。しょうもないギャグばかりの

        おっさん。元、浅草芸人で現在4000万円の借金を踏み倒して逃亡中らし

        い。

今林……ブスッとした人だが、最近は笑顔が多くなった。面白いおじさんだ。

清野……元高校教師。チーフ。

岩井……照明アルバイト。リズム感はあるが基本を逸脱した照明。照明だけに集中で

    きるのでうらやましい。

片山……照明のチーフ。基本に忠実で手堅い照明。

池田……コントの人だか裏方でも重要な存在。将来性のあるコント。

剣持……キンチャン。コントとフィナーレの司会、隣の会社の事務所の電話番など。

三浦……あだ名は大五郎(焼酎の品名)最近来た人。アル中気味。完璧な変人だ。

公重(きみじゅう)……太った女性コント。一日1回だけ出演。

マサさん……本職板前。コント。一日一回だけ出演。

支配人……厳しい人。怒ると凄まじいらしい。全員を厳しく束ねる役目。

小坂さん……照明プランナー。外部の人らしい。太っている。滅多に来ない。

矢野社長……ときどきくる。鶴の一声で舞台が変わるらしい。



4/8(金)

 照明2回。名鳥以外の照明、だいたい一人でやる。終了後、支配人が肉を食わせて

くれるということで焼肉モウモウというところに行く。車で20分ぐらいのところだ。

白石奈央とスタッフ7人で行く。清野、片山の2人は名鳥のスチール撮りのため来な

かった。車に乗ったとき、隣に白石が乗ってきたので緊張した。何も話すこともなく

重苦しい沈黙が 20 分続くので辛かった。解散してからも酔った支配人が新入りの三

浦を説教したりして5時ぐらいまで寝れなかった。ケンモチとコントの話をしたりし

て完全に寝たのは夜が明ける6時ごろだった。



4/9(土)

 名鳥以外の照明一人でやる。だいたいできそうな気がしてきた。ゆとりはまだない

が照明をやっていて楽しい時もしばしばある。立川リタさんが「いいセンスをしてい

る」と褒めてくれた。星ひかるもなんか好意的な気がする。渡はどうも苦手だ。4回

目裏。ゼラ替え、掃除のあと、島田の曲を渡がテープに落としてほしいという事でダ

ビングに付き合う。結局終電近くにやっと帰宅。来週はいよいよ影山莉菜が来る。照

明もできるかもしれない。影山莉菜の荷物だけが届いて階段のところに置いてある。





ゼラ替え

光に色をつけるゼラチンフィルタは劣化してくると色が白っぽくなり見苦しい。楽日

の終了後はもちろん、中日あたりにも交換する必要があった。





4/10(日)

楽日。スピナーが接触不良で1基回らなかったり、スピナーが秋野くるみのスカート

にひっかかって倒れたりしてイライラする。終電近くまで掃除や準備に追われ倒れそ

うになるほど疲れる。



4/11(月)

初日。1、2回目裏方。3回目岩井氏の照明をずっと見て4回目は一人で裏をやる。

4回目にはだいたいやり方が確立する。今回の演目は先週に比べるとセットがほとん

ど無い分楽だった。特に大きなトラブルはなし。

 星が「照明がうまい」と間接的に褒めていたらしいと聞いてうれしかった。



 (1)冴樹しおり (2)片瀬舞 (3)山科香澄 (4)中山美咲 (5)コント (6)星ひかる

 (7)大和あかね (8)小泉裸汝 (9)影山莉菜



 影山には初めて会った。が感動なし。なぜだ。他の踊り子といっしょに思える。忙

しすぎて会話も挨拶もなし。舞台袖でちょっと仕事上の話をしただけだった。片瀬は

踊り子1年目。自分の演技に満足せずイライラしている感じ。山科はOL風の衣装で

簡単な演目。衣装の投げ方がうまい。中山は気のいい感じ。曲が暗く、暗めの照明を

指定している。お腹が出てきたとかなんとか言っていた。大和は今回初めて舞台に上

がったとの事。そのわりに舞台度胸が座っていてベテランの踊り子よりは余程態度も

マトモだ。大阪からきた小泉が難物だ。1回目は衣装が来なくて出演せず、2回目も

ダラダラした感じでコントで出演を延ばした。3、4回目からやっとまじめにやりは

じめる。おっとりした感じの人だが感情の起伏が激しいらしい。大阪の女の子なので

懐かしかったが、自分が大阪出身であることは言いたくない。この踊り子、何かトラ

ブルが起こりそうな気がする。年齢は26ぐらいなのに態度は子供みたいに甘えてい

るのは男を眩ませるテクニックか、あるいは本当に子供っぽい奴なのか。冴樹、星に

関してはどちらもマトモ。影山莉菜は……どんな人間なのかぜんぜん分からない。



4/12(火)

 1、2回目。照明で片山氏につく。2回目は影山以外自分で照明をやってみる。影

山の踊りをじっくり見て、やはり普通の踊り子とは違うとつくづく思った。羽を二つ

持って踊るのだが、小さな身体が素晴らしく躍動している。ライブに関しても、スチ

ールに関しても自分を最大限美しく見せる手段を知っている。衣装も色にメリハリが

あり普通のものとは違う。何やら影山が先生と呼んでいる老人の衣装屋が今日も来て

いた。

 4回目。裏。最大の山場は小泉と影山の間だ。小泉のベットの時、影山に冷却パイ

プの水滴を拭くように言われて、拭くついでに影山に挨拶しておいた。今まで忙しく

で挨拶する暇がなかったのだ。名前を聞かれてから、あだ名はもうあるのかと聞かれ

て困っていたら支配人が出てきて「監督」だとばらした。AVの前職もばれてしまっ

た。影山だけには知られたくない職業だったのに。影山の話し方は快活で人を呑むと

ころがあり、完全にペースに乗せられてしまった感じだ。昨日まで、ただの踊り子の

一人だと思いこもうとしていたのだが、話してみると他の踊り子とは全く違った。清

楚な矢沢、内面的な名鳥、激しい渡。それらにない強烈な威圧感があるのだ。人間の

器が大きいのだ。それにあのキラキラ光る宇宙空間のような瞳を見ていると吸い込ま

れそうになる。

 影山にふいに話しかけられて俺は完全に舞い上がってしまい、大きなミスを侵した。

小泉のオープンでゼラ替え、電飾幕開け、8発ライトセットを一人でしなければなら

ないのだが、8発のアタリがとれないのでインター確認に手間取り小泉ラナのラスト

幕開け閉めに失敗したのだ。しかしそれで小泉に謝っていたらこんどは影山の幕開け

を忘れてしまって影山が「幕開けて」と叫んでようやく気づいたのだった。ついでに

幕閉めのタイミングも失敗した。影山が頭を上げて手を振ったら幕をしめようかと思

っていたら、いつまでたっても顔を上げず結局本人が幕を閉めろと合図して急いで閉

めた。「音楽が鳴ったら幕を開けて、音楽が終わったら幕を閉じる!」と大声で怒鳴

られた。上でも「やってくれるよ監督は!」と怒鳴っていたようだ。完全に意気消沈

した。完全に俺のミスだが、なにより影山の舞台でいきなり失敗したのがショックで

あった。渡にしても渚にしても喧嘩をする余地があったが影山にそれはない。影山は

完璧なのだ。しかし影山が自分より人間的に上だとは思いたくないし、負けたくない。

明日からは影山を単なる一人の踊り子に過ぎないと考えて、呑まれず、距離を置いて、

舞台に集中していこうと思う。影山を更に素晴らしく輝かせるような完璧な照明がで

きるまではこの仕事は辞めたくない。影山に対するミーハー感情(そんなものは理性

的には持っていないつもりだったが、本能的には染みついていたようだ)はぬぐい去

らねばならない。影山は唯一、怖いと感じる女だ。





8発ライト

持ち運びできるライトとしては最大のものだった。4発のライトを並べたものが2基。

光のラインをみせるためのもので扇形にしたり、色をバラバラにして場内に飛び込ま

せたりした。





4/13(水)

 浜名氏休み。1回目照明(影山以外)2回目/4回目裏方。3回目休憩。山科香澄

が来なくてコントが長くなり、前説5分を追加したり大変な一日だった。専属の冴木

しおりや星ひかるがそれぞれ1ステージ増やした。山科は神経痛とかであと2日は休

むとのことで間、秋野くるみが来るそうだ。

 影山莉菜がコロッケを皆にくれた。影山は俺を「監督ぅ」と呼んで親しくしてくれ

るが俺はなるだけ距離を置いている。影山に媚びたくないのだ。仕事に集中したいの

だ。

 しかし今回は舞台袖で話しかけてくる踊り子が多く困っている。専属の踊り子は無

駄口をたたいたりしないのだが、中山美咲は音響、照明、クーラーに注文が多いし、

小泉裸汝はのんびりした口調で笑顔でいろいろ話しかけてくるし……。なるだけ話し

かけられないように逃げていたいのだが、小泉の場合服を脱がせるのを手伝ったりし

なければならぬので逃げられないのである。

 片瀬舞も服を取ってやる作業があるので舞台袖に張りついた状態で見ていなければ

ならない。前のしおりさんのオープンの最中、じっと俺の目を見ているので困ってい

たら意外なことを話した。俺のことを知っているというのだ。ビデオの会社にいた時

見たというのだ。ファミーが中野にあることを知っていたのでどうやら本当に会って

いるらしい。しかし俺はまったく記憶に無いのだ。彼女にはこのことは誰にも内緒に

しようと言った。片瀬は生意気な感じだが仕事に一生懸命で可愛く思う。

 影山の舞台の仕込みは一番緊張する。今回はなんとか成功した。影山は一生懸命踊

って幕が閉まってもしばらく舞台に座り込んで立ち上がることができなかった。裸の

影山と二人きりなので、なにかためされているような気がして、その場を離れてチー

フや片山氏にまかせた。影山はベッタリされるのが嫌なタイプだろうからそれでいい

と思う。下着などの衣装も自分で上げるようだ。俺を信用していないのだろうか。

 新人の大和あかねが出演前に泣きべそをかいているので励ましたりもした。この時

も、踊り子と変な関係になりたくないのでチーフにまかせた。踊るのが嫌になる気持

ちもわかる。結局コントやスタッフが終演後に彼女を励ますと元気に帰っていった。





片瀬舞の話は

いま思えば彼女にからかわれただけだったのかもしれない。





4/14(木)

 初めての休暇。ほとんど睡眠。閉店間際の散髪屋になんとか駆け込む。定期を購入

したり洗濯したり、ジーパンの繕いをしたりで一日が終わる。財布の中にはもう紙幣

が無い状態だがどうしたものだろうか。



4/15(金)

 1回目照明で入り、影山以外の照明をやるがあまりうまく行かなかった。ゆとりが

出てきたが集中力に欠けた。病欠の山科の代わりに秋野くるみが来る。前回と同じ演

目だがオープン曲が変わっていた。冴木しおりが親しく話しかけてくるようになった。

冴木は、よく観察してみると素直な優しい女のようだ。熱狂的なファンがいて「しお

りちゃん!」といつも声をかけている。冴樹は影山を「お姉さん」と呼んで慕ってい

る。体格は冴樹のほうが大きい。きょうは白石も遊びに来ていた。中山がお客に「コ

ラ!」と言われたとかで泣きべそをかいていたので、おもわず頭をナデナテしてやっ

て背中を押してやった。後で

「取り乱しちゃってごめんなさい」と謝ってきた。

 影山莉菜については少女漫画のようにキラキラした瞳がただ恐ろしいといえるだけ

だ。影山は美しすぎる。幕間、機材の仕込みを終えたら影山がモップを持って待って

いた。ただ床を拭く俺。



4/16(土)

 影山のラストはプレゼントが多くて幕が難しい。失敗してまた文句を言われる。チ

ーフはテープの電源入れ忘れで出だしが遅れたのがミエミエなのに俺がインターし忘

れたせいにして責任をなすりつけた。やる気を無くしてしまう。片瀬舞は新人の大和

あかねに衣装を貸してやったりしていい娘だと思う。舞台の表情より楽屋の笑顔の方

が可愛い。影山はこちらを全然信頼していないようなので(衣装を上げさせない、フ

ァンの花などもわざわざ浜名さんを呼んで上げる)もうできるだけ近寄らないように

している。



4/17(日)

 影山が舞台袖で「私の照明やりなさい」と言ったそうだが音楽がうるさくてよく聞

こえなかった。浜名氏に後からきいた。



4/18(月)

 影山の照明やるつもりで朝から精神的にボルテージを上げていたのだが、突然やる

前になって片山氏が照明室に入ってきて、ぼくやるといいだしたので唖然。完全にや

る気を無くしてしまった。その前の7人の照明も隣で片山氏があれこれ言うので集中

できず不満の残る一日だった。照明に集中できないほど腹の立つことはない。今は照

明の基本を学ぶことが重要だそうだ。もう中日も過ぎていまさら影山の照明をやるチ

ャンスもない。今回は完全にやる気がない。影山とも顔を合わせないようにしている。

だんだん影山が遠い存在に思えてきた。心底好きな女のハズなのに溝が深まるばかり

なのはなぜだ。

 小泉裸汝のファスナーを下げ損ねて壊してしまった。はじめは弁償してと怒ってい

たがチーフがなんとかなおすとのことで助かる。チーフは頼りになる。





踊り子のハイヒール影山莉菜などの踊りの激しい人は、すべらぬようにヒールの底に

ゴムを貼っている。変なゴムを貼って床をまっ黒にする踊り子もいた。チーフは踊り

子に頼まれるとニコニコしながらゴムを貼っていた。





4/19(火)

 影山の照明はできない。諦めた。やる気もない。影山自身なんか怒っているように

思う。他の踊り子の照明も途中で別の仕事に駆り出されたりしてまったく集中できな

かった。面白くない。専属の踊り子との距離はますます大きくなる。逆に専属でない

踊り子とはコミュニケーションがうまくいく。妹のような片瀬舞、大和あかね。大阪

の小泉裸汝。中山美咲などとは気楽に話をしている。照明をやっていて酔ったお客さ

んにご祝儀2千円をもらう。片山氏に言ったら半分取られる。



4/20(水)

 調光卓基板取り替えのため9時30分までに出社。片瀬、最後に袖についていてお

互いの目線が幸せだった。ビデオの仕事はもうしないと言った。踊り子になって良か

ったと言った。彼女は何度も元気でねと言った。大和あかねは片瀬の後輩だが、舞台

が終わってから泣いていた。今回のみで辞めるようだ。居酒屋の店員になりたいらし

い。影山とは挨拶もせず。むなしい。初日準備のため帰れず、泊まる。



4/21(木)

 今回も突然来ない踊り子がいて、穴埋めの踊り子がくる。トリは冴木しおり。1回

目は例によってまったく段取りもわからず進行もバラバラ。2回目からも香番がまっ

たく変わる。3回目は照明。気合の入った照明ができた。ローソクSMが2人いるの

で大変だが満足なり。



4/22(金)

 テープセッティングに問題があり、音が出ないという事故が2回もあった。最悪だ

った。特に自分の照明の時は焦った。岩井氏のミスだった。夜、支配人に誘われ朝方

まで呑んだ。五反田の日本料理店とどこかのスナックに行った。コントの連中と浜名

氏が芸の話で論争になった。タクシーの中で皆さんの身の上話などきく。チーフは元

高校教師で女生徒と関係して婦女暴行かなんかで懲戒免職になって道劇にきたらしい。

世間体の悪い話だが、高校教師よりは道劇の従業員のほうが精神は健全ではないかと

思える。俺の知っている限り、教師や大学教授などは精神がいびつで常識がなく、人

としてなんら学ぶべきことがない奴が多い。



4/23(土)

 照明一回、裏二回。照明はまだまだ荒いところがある。疲れた。



4/24(日)

 朝に洗濯、風呂。忙し過ぎる。これから出社。今回SMなので朝当番はロウソクの

始末に悩まされる。照明をやっていて完全にやる気を無くしてしまう。片山氏が照明

室に入ってきてあれこれ指示すると集中力がなくなり逆に舞台が悪くなる。浜名のじ

じいもくだらないインターをかけてくるし、やる気を無くしたあとの花岡、田代、冴

樹の照明はただ点灯しているだけの照明だった。ぜんぜん踊り子を愛していない照明

だった。片山氏の照明とはそんな照明なのだと俺は思う。



今回からはワープロで照明と裏のメモを作ることにした。

--------------------------------メモ----------------------------------

【裏メモ】

                   64  本舞台  センター

南條沙樹    電飾幕開け 床掃除 〔パープル〕〔青〕〔パープル〕

小谷あや    電飾幕閉め 下手 (靴上げない)

南まや    (靴、盆、上げてよい)

前説(2分)  一条の準備

一条愛     薔薇を渡す  (靴上げてよい)

        ベット 幕閉め(シート出し、ロウソクセット 、64〔赤〕)幕開け

        点火  スモーク換気扇停止

            小夜子の準備(クサリ/トランク)

        消火  スモーク換気扇入れる

        オープン  幕閉め、クサリ/トランクのセット、一条を入れる

小夜子     幕開け

        点火  スモーク換気扇停止

        消火(ピンノミ)スモーク換気扇入れる、64〔パープル〕

                (オープンまでにやる)

        幕閉め

インターバル(2分) 撤去、FQ/クローゼットセッティング、床掃除

花岡舞     舞台裏の掃除

        オープン FQ/クローゼット撤去

田代由佳   (靴は上げない)

        オープン 幕閉め、8発セット、本舞台〔赤〕 センター〔赤〕

冴樹しおり   幕開け

        オープン 幕閉め、8発撤去、電飾、幕あけ

フィナーレ



【照明メモ】

南條沙樹   電飾 クーラー切る

       激しい曲   静かな曲   凄く激しい曲   ベット

小谷あや   暗転板付き(トップ) クーラー入れる

       1曲目おわり 暗転

       2曲目おわり 暗転

       バロック   SS

       ベットイン     青バックサス

       ピアノ    赤トップ

       ヴァイオリン    センターITO(パープル)

南まや    音レベル低い/ 頭ピンのみ

       1曲目 コミカル

       2曲目 怪しい  ●〔居るところにつける照明〕

前説(2分) クーラー停止

一条愛    暗転板付き(トップ)

       2曲目 あおり

       3曲目(トップ、暗いSS)

       シート出し幕閉め(SS)

       サックス ボンパープル

       ウァイオリン  場内ITO

       SM

       ピアノ OPEN (青SS弱めておく)

小夜子    音レベル高い

インターバル(2分)クーラ入れる

花岡舞    FQ 2番

       スタンド、トップ、

       ベットイン  赤バックサス

       次曲  青バックサス

田代由佳   暗転板付き    ●〔居るところにつける照明〕

       2曲目 トップ

       女性ボーカル   本舞台ITO(青)

冴樹しおり  8発 2番 64 7番(まだ使わない)

       スタンド、トップ

       1曲目おわり トップのみ

       2曲目おわり トップのみ

       ベットイン(這ってくる)   青バックサス

       曲変わる   盆トップ(赤)

        (ITO 切替え)

       盛り上がり   全ITO

       トップ/赤SS 消してピンのみ (センター落とす) 暗転

    オープン 8発 2番、幕閉め 電飾、フィナーレ準備(ピン、切替え)

       暗転

フィナーレ

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FQライト

持ち運びできるライト。2基あった。500ワット。下においてにオブジェを浮かび

上がらせる。まれに吊るす事もあった。光はボンヤリした感じで光の幅を調節できる。





4/25(月)

 スタンドのライトがつかなくなって慌てたが原因は端子が腐っていた為だった。今

日はまずまず、満足のいける照明だった。今後は辛抱強くメリハリのある照明を心掛

けるつもり。給料たった16万円でがっくり。



南條沙樹  身体が中国雑技団並に柔らかい。性格も良さそう。

小谷あや  クラシックが好きなよう。オカッパ頭。控えめな性格なよう。

南まや   明るい。ガサガサしたお転婆風の性格。舞台全体を使って動き回る。

一条愛   ダークな雰囲気。SM。オウムを飼っていて優しい性格。大人。

小夜子   舞台は計算され尽くしていて凄い。大人。SM。

花岡舞   最近ますますおとなしくなったらしい。妹の星ひかると随分違う。

田代由佳  ニコニコしてずいぶんと優しい性格。顔姿は渡未来にちょっと似ている。

冴樹しおり 今回トリなのでウキウキして輝いている。衣装も新しくして、今回は前

     回と表情が違い、随分かわいく感じる。踊りはもっと研究した方がよいが。



4/26(火)

 田代由佳が口の中の手術のため一日だけ休み。代わりに五十嵐レミさんが来る。ロッ

クで踊っている。照明2回続けてやるが何とかなった。



4/27(水)

 仕事休み



4/28(木)/29(金)SMはロウの掃除が大変だ。ゼラ替え。



4/30(土)  楽日。泊まり。楽屋でバルサンを焚くので朝5時ぐらいまで

         飲んだりする。疲れた。



5/1(日)

 初日、一日中働く。照明も一回。初めて影山莉菜の照明をする。やっとできた。照

明室に自分ひとりなので自由にできた。俺の光の中に影山がいた。光が影山と一緒に

踊っていた。



5/2(月)   裏は完璧にできた。照明はまだまだだ。大入りが出る。





大入り

大入りがでると大入り袋に500円を入れて踊り子や従業員にくばっていた。





神崎千春     ショートヘアの気の強そうな人。

渚真琴      今回はお互い気を使っている。可愛いく思えてきた。

樋口かれん    いつもすみませんと言ってる新人。気が動転している。

白石奈央     演技は凄く可愛い。真剣に仕事をしている。

花岡舞/星ひかる 今回は二人でSMをやっている。燃えよドラゴンの音楽。

冴木しおり    前回と同じ演目だが、キメの明かりが少なくなって可哀相。

名鳥舞      スチュワーデス物語。

影山莉菜    今回は怒鳴らない。機嫌も良さそう。ブラックライトで衣装が光る。



5/3(火)

 1,3回目照明。今日も大入り満員。神崎千春の手袋が無くなりこっちのせいのよ

うに言うので叱っておく。結局楽屋にあった。渚や白石は素直になった。樋口かれん

は何度言ってもオープンで早く帰ってくる。まだ新人で緊張しているのだ。名鳥舞は

シラケ世代のようだ。ツンツンしている。4回目の舞台袖で影山が「監督ぅ。照明の

センスがあるね」と言ってくれた。「皆うまいと言ってるよ」と言っていた。素直に

喜んでしまった。



----------------------------メモ------------------------------------

【裏】

神崎千春    【ゼラ】 64 B3,センター 赤22,本舞台 青73

             下手(衣装とクツ置いてある)

  (3曲目〜)【ゼラ】 64 パープル

渚真琴      上手 黒丸イス (衣装注意)



樋口かれん   【電飾】 下手

         open【幕閉め】【白石キッチン/キッチンセット 】【電飾幕閉め】

白石奈央     樋口入れる/首出し/押し出し幕開け



コント(6分)  (1)暗転10秒 後 幕閉め

         (2)open終了後すぐ幕閉め

        【キッチン撤去】〔ウエイト〕【パネル2枚】〔AC幕裏に仕込む〕

花岡舞&星ひかる クーラー停止

        『アチョ〜!』で幕開け

         open【パネル撤去】【8発セット】

冴木しおり

         open【8発撤去】【ゼラ】センター パープル 本舞台 赤22

名鳥舞      キャスター/名鳥イス(出てから上手にセット)

         (下手のものしばらく下げない)

open      イスを下げる【幕閉め】

        【ゼラ】センター 赤22

        【AC/オブジェセット】

影山莉菜    【ブラックライト】 【幕開け】

        孔雀のハネ受け取り(ダンゴは持っていかない)

        open【AC/オブジェ撤去】【電飾】

フィナーレ



【照明】

神崎千春      64 花道

          不気味な始まり    2曲目 64使ってアオル

渚真琴       ムード   ピン使わない  ●すぐ前に出てくる

          レゲエ   ピン使わない

          男ボーカル「アロー 」   ピン可 〔暗転〕

          次曲  ピン

          次曲  ベットイン

          open前の女性ボーカル  〔暗転〕

樋口かれん     電飾

          激しい曲    曲が沈んでもしばらくはopen状態

                  ピンはベットアウトまで使わない

          幕閉め〔電飾消す〕  青SS

白石奈央      生ピン

          オープン状態

          引っ込んで(トップのみ残す)

          雨の中の曲 ピン,1卓2番  曲終わりでベットイン

          次曲 でバックサス 赤

コント(6分)   暗転10秒

          デッキ電源入れる

花岡舞&      スタンド+トップ+赤SS

  星ひかる        全open

          青SS+カミシモ  トップ+赤SS  パープル系

          センター(7)赤  ピン

         「メリジェーン」 場内(2)赤+

          次曲    本舞台(8)青

          ピンだけ   暗転   オープン

冴木しおり     8発 2番  スモーク焚く

               ベットイン 青バックサス

               センター(7)

名鳥舞       トップ スタンド 一卓 「パーライト消さない」

          センター(7)パープル

影山莉菜   暗転40秒(スモーク焚く)  オブジェ光 花道

       明るくopen状態

       3曲目 素早くアオル

       4曲目「アイアイオー」カミシモ+赤SS,横ピン,3−5,横でピン

       ベットイン 3−3 赤バックサス 3−6

       ベット 次曲  (2)(7)(8)全開 +オブジェ光

       ボンで  open(フィナーレ準備)

フィナーレ

------------------------------------------------------------------



電飾

フィナーレや、明るい曲で使用。舞台セットの無い新人などに多く使われた。これを

使うと他のあかりが死ぬのであまり使いたくはなかった。本来はフルで使うものだが、

片山さんはベッドなどでムードを出すためハーフにして、プランナーの小坂さんに怒

られていた。





5/4(水)

 仕事休み。宮地氏と本屋散策。喫茶店おごる。ピンサロ英国堂にて19才のゆかり

なる豊満な女。その肌ざらついた感じなれど、肉体豊満にして気立て良し。生理ゆえ

脱衣せぬゆえ我いささか難儀する。生理なら休め。



5/5(木)

 照明一回。裏二回。制御卓の調子が悪くライトがよく切れる。毎日どこか切れてい

る。コントの池田にピンサロの事を言ったら影山莉菜に聞こえるよう大声でにばらし

てしまう。困った奴なり。影山莉菜も大声で「監督ピンサロ行ったの!」と言った。

大変ばつが悪い。影山莉菜はサバけた印象で、こちらに合わせて潮吹きの話題などを

していたが内心、軽蔑しているかもしれぬ。なんか絶望的な気持ち。



5/6(金)

 照明朝2回。今日は照明卓修理屋、もぎりのおばさん、渚真琴などが照明室に来て

集中力にかけた。このごろ仕事は充実しているが、食事を貪ったりジュースを飲みす

ぎたり、小説を書かなかったりの悪習がついてしまったので改善せねばならぬと思う。

白石奈央がなんとなく無愛想である。影山のことでドタバタしているので「馬鹿みた

い」といわれてしまった。まさか俺が影山に惚れているのに気づいたか。たしかに馬

鹿みたいな話ではあるが。あんなのに恋せず白石に恋していたら俺も幸せだったろう。





白石奈央

彼女は踊りをみせるタイプの踊り子ではなく、物語の構成や、表情や、しぐさでみせ

るタイプの踊り子だった。いつも自分で東急ハンズに行ったりして、舞台でつかう小

道具を作っていた。実生活はまじめで、とても好感のもてる女性だった。





5/7(土)

 とくに何もなし。照明一回。集中できず調子が悪い。4回目にはぐったりとなって

コント部屋で寝る。寝ている間にコントの連中に悪戯書きをされて、星ひかるにから

かわれた。



5/8(日)

 不調。一日中イライラ。競馬のために照明の順番を変えたり裏の仕事をおろそかに

する人が多すぎるため。照明もガタガタだった。照明をやりながら競馬新聞に印をつ

けているのだから腹が立つ。4回目の休憩でひさしぶりに外出。カツドンなど食し本

屋散策。



5/9(月)

 2回目のみ照明。裏方は2回だが従業員部屋でのんびりTVを見ながらでもできる。

4回目休憩のため、喫茶店にて小説推敲。大五郎(三浦)や池田くんなどコントの連

中と話していると気がまぎれる。他の従業員(とくに浜名氏)は言葉が多すぎて話す

気にもなれない。自分の時間を作る努力が必要だ。





コントの池田

こいつはほんとうに踊り子の裏情報をよく知っていた。あの踊り子がいまは新宿のノ

ゾキ部屋に出てるとか、あれには男が何人いるとか、あの踊り子はレズだとか、いろ

いろなことを言っていた。本当かどうかは明らかではない。





5/10(火)  楽日。今回は泊まらず終電にて帰る。



5/11(水)  初日。酷いものだった。玉切れなどの事故と準備不足が重なる。

         照明もまったく感情移入できず不満。疲れた。



5/12(木)

 渚真琴の時クーラー入れ忘れたら、本人からインターがかかってきて「バーカ」と

言われた。ムカッときたが、あとで本人が謝ってきた。照明まだ固まらず。裏は4回

目にして一人でできるようになる。





インター

インターホンのこと。事務所、窓口、照明室、舞台裏をつないでつねに連絡を取りあ

っていた。



エアコン

踊り子によって、暑くて踊れないからクーラーを入れろという者、寒いから切れとい

う者、さまざまだった。照明室から降りてスイッチを入れねばならず、これは照明に

集中できない原因のひとつだった。





5/13(金)

 2回照明だが赤SSの玉が切れたりして大混乱でさんざんな照明だった。裏の時、

渚真琴が話しかけてきたりした。いい女だと思う。感情にムラがありすぎるが。

 小説も書いていないしこのままでは駄目だ。暗い隙間にもぐり込もうとするゴキブ

リの気分だ。たとえゴキブリでも羽をひろげて飛ばねばならない。





SS

本舞台を斜め上から照らす基本的なライト。赤と青があり、同時につけるとパープル

になる。よく切れたが、舞台袖にあるのでステージの最中でも交換が可能だった。幕

が閉まっているときの作業灯としても使用された。





水沢ルイ 水商売風のオネーチャン。性格は明るい。スッピンの顔は別人のようだ。

     今回はアラビア風の衣装で踊っている。

広田まみ 舞台ではブリッコだ。ポシャっとして可愛い容姿だ。新人のようだが大人

     だ。愛想は悪い。

深津みゆき 作り笑顔っぽい。本質的に礼儀正しく好感が持てる。音楽の選曲は盛り

     上がりがゆっくり過ぎる曲が多くなる傾向にあり照明のメリハリがつけに

    くい。美人ではないがやる気があるし笑顔を絶やさないように努力している。

渚真琴  気分の変動が激しく、平気で酷い言葉を吐いてしまうが、後になってそれ

     を後悔して悩んだりしている。気まぐれで生意気で可愛い女だ。

星ひかる 今回は盆の上からにらんでいるようだ。なんなんだ。演目は以前の花岡舞

     と同じ感じだ。姉妹で演目も使い回している。

仲山みゆき イス、テーブル、ワイングラスなどの小道具持ち込みで女マフィア風の

     踊りである。音楽はゴットファーザーのテーマ。構成が良く考えてある。

     客の拍手も多い。性格よし。ノってくると泣きそうな表情になる。赤い照

     明が似合う情熱的な曲。今回一番ドラマティックで素晴らしいステージ。

     感動した。

青山リカ 美人。背が高い。新しいヒット曲で踊っている。open曲は矢沢裕未と同じ

     曲を使っていた。ちなみに矢沢裕未は突然引退したらしい。その最後の仕

     事で俺は裏方をしていたのだ。矢沢は影山に次ぐ存在だったので残念でな

     らないが、それで本人が幸せならそれでいいだろう。

影山莉菜 曲が2分程延びた。前回は盆の上でopenになってしまったが今回は感動的

     にベットアウトして帰ってゆく。本人は自分でテープを編集して(ミキサ

     ーも持っているらしい)持ってくる。好きでたまらないが、一番苦手な女

     でもある。この矛盾は苦痛だ。



5/14(土)

 1/2回目照明。片山氏休み。何事もなく無事終わる。調子良し。●開高健「知的

な痴的な教養講座」古本屋にて購入。



5/15(日)

 影山が俺のことを、いつもの「監督ぅ」ではなく本名で呼んでくれた。うれしかっ

た。照明は順調。



5/16(月) 順調なり。



5/17(火) やはり仲山みゆきが最高に光っている。照明にも気合がはいる。ピ

        ンだけで追ったりとか。いい照明ができた。





ピン

ピンスポットのこと。大きさを変えたり、フォーカスをぼかしたりできる。普通はパ

ープルがはいる。ここだけのはなし、若い肌のピチピチした踊り子には一段浅くて明

るい85、それでは苦しい人には色の濃い86を使用していた。最近はこの番号も3

桁になったのかな?





5/18(水) 休日。夕方まで寝る。



5/19(木)

 照明2回。順調。事務所に突然影山が来て俺がいる横にすわったのでまた血圧があ

がった。プレイボーイ編集部のムック「気功の本」に載っていた影山を見てストリッ

プに見に行ったことなどを話す。影山は「スタッフが安定しているのでいい」と言っ

ていた。以前は照明がいなくて大変だったそうだ。一日4回照明をやっていた人もい

たとか…。たいていの人は入って3日ぐらいで嫌になって辞めていくとか言っていた。

 支配人が泊まっていけとやたらに言っていた。たぶん影山を含めて、泊まった人だ

けで呑みに行くのだろうと思う。そんな気がした。影山も俺に飲めるのかと聞いてい

たし。しかし残らなかった。家で小説をやりたかったのもあるが、なんというか俺は

天の邪鬼なのだ。影山と呑んでもたぶん何も話せないだろうし素直になれないだろう

から。影山莉菜は好きだけど、ベタベタくっついていたくはない。自分が小説家とし

て大成しているならともかく、今の自分には彼女を好きになる資格は無い。





事務所

事務所には電話、ステージ監視のモニター、テレビ、ソファーなどがあった。壁には

劇場差し押さえの紙が貼られていた。毎日のように地回りの人やら、警察やらいろん

な人が訪れていた。





5/20(金)

 楽日。順調。照明2回。泊まりにはならず。ITOの種板替えたり、オブジェのバ

ミリをしたのみ。明日は有線スイッチの修理。卓のラベル張り替え。口だけで実行し

ない人が多く、見えないところで仕事をしなければならないので辛い。寡黙に、やる

べきことをやるしかない。今回の照明は仲山と影山のみ燃えた。この二人は仕事に張

りがある。





ITO

本舞台からボン方向を照らすレンズ付きのライト。種板にはシャワーや輪っかなどの

パターンがある。あくまで光のラインを見せるためのもの。スモークがなければ光線

がきれいに出ない。光量が小さいので踊りには使えない。ベッドの帰りぎわなどに使

う。





5/21(土)

 初日。本日もまたチーフと大声で怒鳴りあい、浜名ヒステリー爺と険呑な雰囲気に

なり大変な一日だった。が、裏、照明とも大きなミスはなく、まあ順調だったといえ

る。1、2回目の裏はほとんど浜名氏にやってもらってモニターを見ながら照明のメ

モを作ったりセッティングの変更などする。3回目は照明。何ら指図されることなく

まあまあできた。4回目には裏を一人でやった。深夜までフリーケーブルの施設をし

た。今林の糞ジジイは早く帰れとウルサイ。浜名のジジイも主導権が無いのでヒステ

リックだ。皆、競馬ばかり考えていてうっとうしい。



5/22(日)23(月)24(火)

 照明の順番を競馬の都合で変えられたり、遅刻の代理で休憩を削られたり、従業員

控室でさえゆっくり横になることもできなかったり、なんだか一日中仕事をしている

ようで辛い。小説というものに面白さを感じなくなった今。自分の目的すら失ってし

まった今。最低の日々。ただ古本屋で買ってきた本を読むのみ。



  今回の踊り子

立川リタ  気のいいベテラン。踊りは凄い。犬のゴンが可愛い。

裕木愛美  新人。ほとんど知らない。そこらへんの女の子っぽい。

花岡舞   白くて長いおとなっぽいドレスで踊っている。

白石奈央  先々週と同じ演目。時間が長くなったので作品的に完成度が高い。

芽芽    黒っぽくて小さい娘。ショートヘア。元気がいい。楽屋ではいつもアン

      ダーヘアを抜いている。

星めぐみ  わけがわからんトボけた娘。ひょうきん。急激にグラマーになったらし

      い。馬鹿っぽい演技をしているが、実際は明るく礼儀正しく優しい人と

      みた。

御幸奈々  踊りは上手いのだが、影山の模倣のような印象。毎回舞台のやり方を変

      える。いろいろ模索しているのだろう。動きも早く照明は難しい。



5/25(水)

 しおりの来週の演目の練習のため9時出社。男優の野上氏にも会う。30分45秒の長

い演目だ。音楽はすでに完成している。

 照明一回。ガタガタだった。あれこれ言われて全く集中していなかった。特に御幸

奈々では上手くいったことがない。相性が悪い。誰とも話す気にもなれぬ。やる気無

し。鬱。給料16万。鬱。



5/26(木)

 仕事は休み。新宿歌舞伎町のソープに行く。名は平野という。美人でグラマーだが

本人の弁によるとお腹の回りの贅肉はピルのせいとの事。前の男の借金400万円稼

いでやって別れたと聞いて偉い女だと思った。SEXは奥が深いから恋愛して恋人を

作って一人に集中してやりなさいと説教された。大きなお世話だ。プレイはこしょば

ゆいばかりでぜんぜん気持ちが良くなく、31000円の価値は無かった。こっちが

金をもらいたいぐらいだ。風俗でもスケベになりきれない。恋人が欲しくなった。頭

に浮かぶのは影山莉菜のことばかり。



5/27(金)

 照明1回目4回目。気持ち良く仕事できた。満足なり。気分良し。池田のアホがま

たソープに行った事を言いふらす。花岡舞にもからかわれた。もぎりのおばさんも知

っていた。支配人に誘われて、チーフ、金ちゃん、今林さんの5人で五反田の日本料

理屋に行く。その後、チーフにスナック「和(ヤワラギ)」に連れていかれる。金ち

ゃんと3人。女の子が2人いた。明るい女の子たちだったので気楽だった。明るい物

知りの兄ちゃんもいて感じが良かった。カズミのという昼に診療所で働いている女の

子がいた。そのあとチーフに10円ポーカー屋に連れていかれる。俺は見ているだけ。

チーフはポーカーゲームにあっと言う間に1万円つぎ込んでいた。馬鹿馬鹿しくてや

る気は無い。時間の蕩尽だ。道劇にはギャンブルで金銭感覚を失った人間が多すぎる。

この日は会社に泊まる。熟睡。



5/28(土)

 朝当番。照明1回2回。気分良くできた。4回目裏。照明機器を自主的に磨く余裕

もある。機材はそのまんまで放り出しているのでホコリだらけだ。磨いてビニールを

かけておくという当たり前の事をしない。言われないと何もしない人が多い。片山氏

もチェックされないところはいい加減にやっている。舞台裏の掃除もしていない。狡

い人だと思う。小坂氏や支配人のチェックに怯えているだけの人だ。



5/29(日)

 ITOのレンズ磨きのために早朝出勤。2回目のみ照明。パーライトが切れたりし

て不満な照明。満足度無し。岩井氏の都合で休憩がまた4回目になったりする。今林

氏と浜名氏には閉口する。根性が薄汚い。人間的にまったくみみっちい。不愉快だ。

終わった人間には興味がない。競馬馬鹿ばかり。三浦くんのように裏表の無い人間と

話す時が一番楽しい。コントの連中ぐらいしか心を許して話せない。星めぐみ。頭で

30秒ぐらい出遅れる。

「怒ってる?」とか言っていた。気を使ってよく話しかけてきたりして可愛い女であ

る。



5/30(月)

 早朝9時から、冴木しおりの「乱れ責め・絶頂」の練習に立ち会う。矢野社長来る。



5/31(火)

 早朝から練習。小坂さん参加。楽日演目終了の後、マシンのセッティングに2時ぐ

らいまでかかる。タクシーで帰宅。



6/1(水)

 朝当番。初日。しおりの照明は小坂さんに取られできず。クソ。しかし小坂氏は影

山の照明はやらなかった。踊り系の照明には飽きているようだ。影山が自分の思いど

うりにならないので腹をたてて今ではもうすっかりあきらめているようだった。影山

は小坂氏だけでなく社長の意見もきかないようだ。



6/2(木)影山の照明、センス無いと本人に言われる。頭にくる。



6/3(金)

 3番手の井上リサの代わりに雪乃リカという金髪色黒背高の女が来る。影山が裏の

ミラーボール出すとき「がんばれー」と応援する。きのうはセンスないといったくせ

に、今日は応援したりする。



6/4(土)

 3番手の井上リサの代わりに飯島直美という小柄中肉の性格のいい女来る。いろい

ろあったが、疲れていて書けない。影山とは話さないようにしている。無視している。

俺だってだれよりもあの女の照明を一所懸命にやりたいのに。岩井氏のように照明の

仕事だけに集中できたらどんなに楽だろうと思う。しおりの照明、小坂氏のコピーな

のでセンスは最高にいい。やはり小坂氏はプロである。



6/5(日)

 影山以外は順調にやっている。影山とは話さない。無視。いけすかない女。4回目

は取材があるとかで照明を外される。気に入らぬ。今週は忙しくいろいろあったがな

にも書き記す気にはなれぬ。気分が悪くても照明に影響は出なくなったが、最近照明

をやっていて満足感を感じないのはどうしたものか。時給で計算すると458円とい

う悲惨な仕事なのだから、仕事に満足感がなければやっている意味がないではないか。

燃えるような照明がしたい。



6/6〜6/10

 影山と険悪な状態の日々。照明もまったくうまくいかぬ日々が続く。終演後、星&

花岡の次の演目の練習に立ち会う。星は、がに股でアソコを開いて「鼠小僧!」と意

味不明の言葉を発しながら舞台の上でおどけていた。ファンが見たら泣くだろう。



五十嵐レミ 激しい曲。ピンのみの暗転が多い。姉貴タイプ。ロック姉ちゃん。

清水マミ  大陸系の曲。ふくよかな感じの顔。肌がきめ細かく白い。

井上リサ  インド系の化粧が不気味っぽい。ブリッコ踊り。ベッドは本舞台が多い。

冴木しおり 今回は30分以上の演目なので終わる度に倒れこんでいた。酸欠状態。

野上正義  おもしろいおじさん。脚本、出演をこなす。声も大きい。「しおり!」

小谷あや  前回は無愛想だったが今回は愛想がよかった。ショートヘア。背が高い。

阿修羅   化粧と髪形と演目をブリッコ風に変えた。誰もが変わったという。名前

      と雰囲気がそぐわない。

影山莉菜  今回は火の鳥が矢に刺さって死んで復活するというもの。嗚呼、もう何

      も書きたくない!



6/11〜6/14

 影山とは多少和やかになるがお互いにいじめあっているような感じ。喋らないよう

にしている。今林氏と衝突する。怒りのあまり大声で「仕事しろ。クソじじい」等、

怒鳴り散らした。玉切れ、岩井氏が来ない、幕が開かないなど不幸が重なりすぎて怒

りが爆発した。すぐ和解。こちらに誤解もあった。もっと人を信じなければ…。

 今林のおっさんと衝突したとき影山が仲裁に入ったが目に入らず突き飛ばしたよう

な気がする。突き飛ばしてなければいいが。なんで俺は……。



日向レイ 水着の跡は真っ白だが、それ以外は真っ黒。ディスコにいるような日焼け

     女性である。背が高くカーボーイの恰好。舞台の上で怒っているが、それ

     は演技だと後になって教えられた。どう見ても照明に不満があるように見

     えるわけのわからん演技だ。

水沢ルイ 前回と全く同じ演目。動きも全く同じ。ある意味ではプロ。気のいい姉ち

       ゃん。

花岡舞/星ひかる 楽屋で二人が寝ているのを見ると笑ってしまう。寄り添った二匹

         の蓑虫が顔だけ出しているかんじ。変な姉妹。

しおり/野上 前回と同じ演目。裏も照明も慣れたので気楽なものだ。

伊藤舞  バレリーナなのだろう。爪先立ちで踊る。鈴などの小道具を使う。気迫が

     凄い。大陸系の踊りの後、ロックになると、首を激しく振りながら物凄く

     激しく踊る。凄い踊りだ。その後、乳首にリングなどして和服でムードの

     ある曲をこなす。笑顔が素晴らしいし、踊りは凄いし、性格も大変よい。

     凄い踊り子だ。亀を飼っている。小柄でかわいい。

千堂あやか 美人だ。人気のある人らしいが演目は普通っぽい。

かげやま  今回は派手な演目。いつもと同じ……。



6/15〜6/28

 影山は聡明に見えて、あんがい常識外れであったりして幻滅することもある。お互

いいつも不機嫌だ。21日の初日には、俺の照明の時にポロポロと涙を流しながら踊

っていた。堪らない気持ちになった。こっちが泣きたいぐらいだ。この後、本気でこ

の仕事を辞めようかと考えた。影山が open 曲に俺が好きだと言った伊藤舞と同じ曲

を使ったのには何か意味があったのだろうか。考えすぎか。ともかく、俺は影山の照

明に対してはノレないしやる気を無くしている。影山の顔を見る事さえ生理的に嫌に

なっている。影山の照明だけは誰かにかわってもらいたい。

 20日の楽日には伊藤舞に「最高でした」と言っておいた。踊り子を絶賛するのは

はじめてのことだが思わず言ってしまった。ちょっと困ったような顔をしていた。伊

藤舞は照明をやっていても背筋が震撼するほどの感動を与えてくれたし、フィナーレ

でも絶対に笑顔を忘れなかった。プロだ。今回は影山や千堂を完全に出し抜いていた。

とにかく踊りが凄い。彼女のときだけは俺も姿勢をただして照明に集中できた。こう

いう踊り子は中山みゆき以来だった。……ただ、伊藤を絶賛したのが影山部屋の前だ

ったので、影山の態度がまた悪化。

 21日初日からしばらく非常に不愉快な、感情をコントロールできない日々が続い

た。





影山部屋

トリの踊り子だけが使うことを許されていた部屋。4畳半ぐらい。





中山美咲 甘えん坊でやたらに話しかけてくる人。舞台の上で恥ずかしがってすぐ帰

     ってしまう?くせに、舞台袖では脚を開いて挑発しながら話したりする。

裸女   コントの池田君が好きな踊り子。小柄でロリータ系だが本質は相当すれた

     感じだ。初日にちょっと喧嘩するが、まあかわいい奴だと思う。

渚真琴  今回はイライラしていなくて表情もよい。

如月舞  持ち込みの衣装やセットが多く本人もやる気がある。ショーとしては面白

     い構成。ただギリギリまで袖に降りてこないし驕ったところがあるので閉

     口する。伊藤舞や中山みゆき程のめり込めないのは人を威圧する社長的気

     質ゆえか。

花岡舞  いつもどうりの気取りのない舞台。

桜木桃香 前よりうまくなったかなという感じ。選曲のセンスの良さか。

影山莉菜 ノーコメント



浜名のじじいは鬱陶しいので無視。



6/29(木)

 名鳥優「エマニエル夫人」練習のため泊まり。小坂、岩井、片山氏と深夜、中華料

理屋へゆく。照明の人間だけで話すのは今回が始めて。支配人が気をつかってのこと

だと思う。小坂氏は「照明には愛がなければならない」と言っていた。そのくせ誰も

影山莉菜を愛せないのか。愛せるものなら愛したい。だいたい全部の踊り子を愛する

なんて節操のないことは不可能だし、2時間30分愛しっぱなしでは脳がもたない。



7/1(金)

 影山がいないので精神的に開放された感じ。初日から一人踊り子が来ず(荷物だけ

は来たのだが朝岡早苗という踊り子だ)踊り子の遅刻も多く、弛んでいる感じ。穴埋

めの踊り子来る。



7/2(土)

 2、3回目照明。たいへん調子が良い。久々に照明をやっていて背筋がゾクとする

瞬間もあったし全体的に集中してやっている。影山がいないから俄然やる気がでた感

じ。



花岡舞    今回は白のシルクハットにステッキを持ってミュージカル風の踊り

真咲すみか  穴埋め。3週間目の新人。うつむき加減に踊る不気味な娘。危ない。

       前半毎日遅刻していた。

名鳥舞    肉体美は最高である。今回はゾクとする瞬間もあって良い。

       物腰静かで丁寧でいいがコントの池田がレズのネコだと言っていた。

沢口友美   前回中国格闘技だったが今回はインド!!最高にかっこいい。

渚真琴    今回は全然違う雰囲気。和服ダンス。難しい曲に挑んでいる。笑顔が

       イイ。頑張っているし、素直だし、輝いている。小坂氏も誉めていた。

白川ゆい   大阪娘。音楽を決めてこないので難儀だったが、踊りはソコソコヤッ

       テル。なんだかムカツク奴だ。

名鳥優    エマニエル夫人。コントの連中の評価は低い。股を開かないからだ。



-----------------------------メモ-------------------------------------

【裏】

花岡舞     電飾

真咲すみか   電飾

名鳥舞     イス下手、電飾閉め

コント〔8分〕

沢口友美

渚真琴

白川ゆい

名鳥優     電飾、セット、open撤去



【照明】

花岡舞     電飾 ●ベットクーラー切る

真咲すみか   電飾

名鳥舞     サイレンノアトツケル

コント〔8分〕

沢口友美    ピンしぼり

渚真琴

白川ゆい

名鳥優    ●クーラー切る C青 3卓6番  64 キリカエトップ

        (1)トップ 電飾 星作動

         +C青 +青SS+青カミシモ(ハーフ)

         (+64)

        (2)パープル強くする  +64 +場内(3−5)

        (3)明るめの複合的アオリ

          (ヨコピン・パーライト)

        (4)電飾のみ暗転 赤SS  星消す 電飾消す

         単品アオリ(赤SS、トップ、3−5)

        (5)ピンのみ

         ベットイン   センター生ITO(7)

            +場内パープルITO(2)

            +ボン(5)       (生消す)

        (6)そのまま(場内パープルITO(2)+ボン)

          ピンのみ

         +センター生ITO(7)

         青SS+トップ

         暗転

フィナーレ

------------------------------------------------------------------



7/3〜7/4

 沢口友美が工事現場のマンホールに落ちて尻タブにハデな擦り傷を作った。ひょう

きんな娘である。大五郎がコントの時間に一人で出る。チンポ丸出しにしてただでさ

え引いている客を凍りつかせてしまう。俺だけは笑い転げた。ああいうのは身内を笑

わせるときの手で芸ではない。浜名氏も渋い顔であった。





大五郎

本名三浦くん。タケシ軍団に入りそこねてホームレスとなり、道劇のコントに拾われ

た男。いまだにこれほどの変人をみたことがない。舞台が終わって劇場も寝静まった

頃から、何時間もかけて得体のしれぬ食べ物を大量に作って食べ、焼酎をがぶ飲みし

ていた。酔っ払うと朝方まで劇場内を徘徊し、寝るときはフルチンで寝る。昼間はボ

ケーとしていて無口だった。彼を雇う支配人の精神力には感服した。





7/5

 名鳥優の照明、完全に小坂氏のコピーにしなければならないので辛い。片山氏の人

間的小ささにはイライラする。自分の好きなようにやらせてほしい。しかし、エマニ

エルのあれはいったいなんなのだろう。イスに座ったままゆーーーーーーーーっくり

動く。額縁ショーのパロディか。



7/5

 夜中にAV時代の殿村と三枝氏が来た。意外な客だった。殿村も今はファミーを辞

めて無職のようだ。ストリップの話などする。三枝氏の奥さんも昔は踊り子だったら

しい。内実を案外知っていた。星めぐみをビデオにスカウトしたのは自分だと言って

いた。三枝氏は俺と違いビデオの才能も無いし非常に醜男だが、マネージャー的才能

はあるようだ。しかしろくな人間ではない。



7/6(水)

 会社休み。マンガ、深見じゅん「悪女」…最近読んでいる。本日(12)〜(19)まで買

う。巨大な商社で女の子がどこまで成長できるのかがテーマ。

 ピンサロ「英国堂」にて21才のかなり可愛いい「そよ」という女とする。話が長

くやる気のなさそうな娘でのんびりし過ぎているが時間切れ寸前には間に合う。テク

ニックが未熟で裸を見せるのを恥ずかしがるなど難儀した。テクニック皆無の人だっ

たのでレクチャーしておいた。将来は雑貨屋をやりたいとのこと。この仕事はすぐ辞

めるそう。その方がよい。付き合っている彼が彼女のピンサロ勤めを知っていて辞め

させないというのが驚きだった。

 夕方、再びムラムラし、ファッションヘルス「平成」にゆく。女の子は23才の  

「さやか」。本日5人目ということで疲れていた。美人というでもないが身体は均整

がとれていた。初めは裸を見られるのも嫌がっていたが、いろいろ話をしていて気が

あってきたので最後までいった。しきりにやさしい人だと言っていた。俺は標準的大

きさでたいしたことはないモノなのに、彼女は大きいと世辞を言う。彼女とは行為よ

り話している時間の方がはるかに長かった。話を聞きたがって勝手に時間を延長して

いるようだった。AV、ストリップ、ソープ、SMの話などをした。彼女は業界2週

間目でこういう仕事を見てみたかったというのが入った動機らしいが、こんなに重労

働で儲からない仕事だとは思わなかったといっていた。優しい人だとしきりに言われ

て俺の心もほぐれた。彼女は次に来る6人目の客が嫌だなぁとこぼしながら「こんな

こと言っちゃいけないんだけどね…」と苦笑していた。感じのいい子だった。



7/7〜7/10

 今回は、名鳥舞、沢口友美、渚真琴の3人の照明が楽しくて充実していて良かった。

 楽日泊まって、明け方まで池田君とテレクラに行く。つまらなかった。「もしもし。

ウーヒッヒッヒッヒ」という男からの嫌がらせの電話が多かった。店員の兄ちゃんの

話によると商売敵がかけてくるのだそうだ。むなしい仕事をやってるなと哀れになる。

女もろくなのがいなかった。ヤラセだろう。池田のように話術がないので俺にはムリ。

池田は金も車もないのに、嘘八百を並べ立ててけっこうひっかけているようだ。俺は

正直すぎる。



7/11

 渡未来がなんか妙にしおらしくて可愛く感じた。



7/12〜13

 渡未来が好きになった。可愛く感じてしかたがない。虜になってしまった。あいつ

の眼差しがなんだか優しくていとおしい。ワナか。からかっているのか。なんだ?



7/14(木)

 休日。散髪。その後ピンサロ「英国堂」で“ゆう”という19歳の女とする。ディ

ープキスも指入れもなんでもする女だったが、あまりに過激にやりすぎて店員に注意

された。あれはビデオ撮影のノリだった。



7/16(土)

 ボーナス10万円出る。予定外の収入。照明はうまくいかず不満。仕事の休憩中に

ヘルス「道玄坂クリスタル」12000 円にて「氏名失念」の女とする。ウエストが細く、

ショートヘアのチョット知的な印象のある女。リードするような白々しいセリフが嫌

だった。

「太股ナメテ…」とか命令したり、明かりを暗くしたり、なるほど業界7年目という

感じだった。シャワー室で抱きついてやったら本気で驚いてお金ちょうだいとかしき

りにわめいていた。出したら本当に着服するのだろう。狂ってるのかもしれぬ。した

たかで危ない、ちょっと面白い女だった。



7/17(日)

 1、2回目照明。小坂氏も褒めるぐらい充実した照明だった。今回初めてうまくい

った。休憩時間に池田君とヘルス「ニューヨーク」に行く。結局30分も待って池田

君と同じ女とやる。影山莉菜に面影が似た20歳の「氏名失念」さんだ。他にも女は

たくさんいたがどうしても影山に似たこの女でなければ嫌だった。生理が終わったば

かりということでナメさせないしオッパイも痛いとか言って触らせなかった。本人が

嫌がるのに構わずこっちで勝手に仕切らせてもらう。池田君は最悪の女だったと言っ

ていたが、俺はそうでもなかった。前日の女に比べればどうという事はない。前の客

である池田君がどんなだったか聞き出したのでなかなか話のネタになった。彼女は以

前別のヘルスで道劇のコントの誰かとやったとか言ってた。もうヘルスも飽きた感じ

である。こんなもの単なるスポーツでしかあり得ない。影山を抱きたい。



五木麗奈  美人だと思う。衣装や化粧で随分印象の変わる人。照明に注文が多くき

      りがないので無視していたら嫌われてしまった。楽日には彼女の方から

      素直にあやまってきた。舞台への姿勢は真剣。

綾瀬なつみ ギョロっとした目の人。美人ではないかも。フランス、イタリア系の音

      楽も変わっている。照明の感じを掴むのに苦労した。「さようなら」と

      かボケッとした感じで言う人。なんだかわからない女を装っている女。

佐々木リナ よそではポラをやってるようだ。池田君はヘルスで働いているという情

      報も得ていた。ハーフの様な顔。鼻に抜けたような声でお疲れ様でした

      〜と言う。感情を表に出さない頭のいい女と見た。舞台はあまり良くな

      いが、楽屋での態度はめだたず良かった。

渡未来   一所懸命の舞台がよい。絶対にステージに手を抜かない。影山に見習っ

      てほしい。今回は怒らせないような仕事をした。舞台から袖に控えてい

      る俺を見つめる視線は優しくて、何か言いたそうな態度がもどかしい。

      いったいなんなのだ? 惚れそうなり。結局今週はなにも無く終わった

      が…。

高木麻里  親戚不幸の為ほとんど休演。笑顔で踊ろうとするが緊張と不安な表情は

      隠せない。

山崎しのぶ 由紀さおりのような飄々とした表情。庶民的な女性か。寿司屋の娘。楽

      天的な感じの娘。一生懸命やっていた。

名鳥優   笑顔で頑張る踊らない踊り子。静止画的エマニエル夫人。表情はうまい。

      一週間気分よく踊ってもらった。

沢口友美(高木の穴埋め(1))今回は悪い音質のテープで以前やった中国風の演目を

      やる。やはり音が悪いとぜんぜん照明にノれない。

南条紗樹(高木の穴埋め(2))前回やったやつ。軟体動物的に曲がるブリッジが感動

      的だ。風邪で声が物凄く枯れていた。いい女。大胆なopen。

7/18(月)

7/19(火) 泊まり。楽屋で支配人やコント達と飯を食う。楽し。

7/20(水) 泊まり。同上。



7/21(木)

 愛染恭子引退興行。初日から連日大入り。今回は気合を入れている。初日影山莉菜

が穴を開ける。穴埋めに愛染さんのところの踊り子と、渚真琴が出る。影山は何を考

えているのだろう。俺があのひとの精神的重荷になっているのかもしれない。



7/22(金)

 穴を開けた影山莉菜だったが今日は来た。元気がなかった。大阪で辛い思いをした

のかも知れない。慰めたいけど話しかけることも、見つめることもできない。素直に

なりたい。



星ひかる   逆転ストリップ。全裸から服を着てゆく。

神崎まりあ  渚真琴風の音楽。ふくよかで、美人ではないがいい娘だ。

日高しおり  美形で清楚で可愛い。ちょっと元気がない。魔女の宅急便の音楽。

       この娘、たしかAVの宣材か資料雑誌でみた記憶がある。たしかフェ

       ラチオしていたようだが。上野スター劇場の女社長は、そっち系のプ

       ロダクションとコネがあるのだろう。

花岡舞    尼僧。畳と障子。おもろいけどこのシチュエーションで立つのだろう

       か?

影山莉菜   セットもなにもないが、音楽はハデものばかり集めたようだ。

愛染恭子   踊り子2名、男優1名、マネージャー1名の他、毎日遊びに来る「裸

       女」の他、楽屋を訪れるお客さんも多く大変な賑わいとなっている。

       踊りの演出はコテコテの大阪風で男優の持ったバイブをフェラチオし

       たりお客さんを舞台に上げて胸を揉ませたりのキワモノをブツ切り構

       成している。選曲もなんだかセンスがない。プロの演出ではなく素人

       の学芸会のようである。しかし愛染の観客動員力は凄まじいものであ

       る。連日、客の頭で盆の上が見えないほどだ。最後に「今日の日はさ

       ようなら」を歌うがちょっとオンチ。礼儀正しい女親分という感じの

       人である。踊り子2名はちょっと笑顔が不気味な「石野エリ」と、笑

       顔のさわやかな「庄野まこ」男優は佐倉君というハンサム男だった。



------------------------------メモ------------------------------------

【裏】 (司会マイク ) ●センター 73青,ワキ ピンク

星ひかる    ミニブル

        ベット撤去

神崎まりあ

日高しおり   モップ、S管

コント(10分) 4発、障子、畳、●センター 赤 ,ワキ 赤

花岡舞        (影山open着)

        open撤去、   ●センター 77青,ワキ 77青

影山莉菜    ブラックライト

        open 電飾、幕閉め

マエセツ(5分)  電飾閉め    ●センター パープル

愛染恭子    幕開け

        ワイヤレスマイク

フィナーレ   電飾



【照明】

星ひかる    ミニブル(A)→2番

        センター(7) 青73

神崎まりあ

日高しおり   本舞台(8) ピンク

コント(10分)

花岡舞     障子当て(B)→キリカエトップ

        トップ + B

        +青SS  →  赤SS

        読経 場内5番

        アオリ適当

        尺八 ピンのみ  場内ITO(2)  ボントップ

        全ITO アオリ  → 7番残し  青バックサス

影山莉菜    ブラックライト ●音量上げる

        センター(7)/ワキ(8) (青77)

        open 電飾

マエセツ(5分)  生ピン

愛染恭子    ストロボ ●ピン→ピンク

        フルライト

        (2)(3)曲 カミシモ、キリカエトップ 切   愛染ピン  ボン

     (4)曲  赤青SS、(トップ、2番をハーフ)  暗転

     (5)暗く スタンド 青SS ●ピン→パープル,FQ→キリカエトップ

            2人目 赤SS(ハーフ)

         男  スタンド  青バックサス

         藍染 赤SS(ハーフ)  ピン

        (6)レズ  2番 + FQ  盆

         客あげ ボン(ハーフ)

        (7)    2番 ピンのみ

         フェラ   ボン(5) のみ

         オナニー  ボン(5) 30%

       ベットアウト センター(7)→ピンのみ ●ピン→パープル(85)

        (8)歌 フル(2卓はバラエティのみ) 愛染ピン

      3回挨拶 暗転

フィナーレ

------------------------------------------------------------------



ミニブル

持ち運びできる目玉が二つ並んだライト。自動車のライトと同じハロゲンである。道

劇には2基あって、本舞台から客席にむけて、逆光や目くらましにつかった。





7/23〜31

 結局、連日大入り満員で、狭い入り口からは客の出入りができず、舞台裏から楽屋

前を通して客を出したりして大変だったが充実した日々だった。特に楽日には「お早

うナイスデー?」のTVクルーとキャスターの東海林さんが来て、俺の照明の時に照

明室の俺のうしろで影山莉菜と愛染恭子を見ていった。東海林さんはわれわれスタッ

フにも頭の低い人だった。深夜まで取材して、丁寧に挨拶して帰っていった。素晴ら

しい人格の人だと感心した。影山はせっかく俺が調子にノって照明しているのに、な

んか嫌な表情だった。腹が立つ。渡未来や名鳥優のようなプロ意識をもってほしい。

 楽日は呑みに行ってから泊まる。支配人はよく喋ってなかなか寝させてくれないし、

大五郎は酔っぱらってフルチンで夜中に食事と飲酒とを繰り返しているし、ホットプ

レートをつけっぱなしにしたりして、ボヤにしかけて、とうとう使用禁止にされてし

まった。



8/1〜8/2

 音響の橋爪氏、クビになり佐久間氏というのが来る。マトモな人なり。橋爪氏は仕

事はできても傲慢すぎる性格で子供じみた感じだった。いつも気安く影山に声をかけ

ていて、俺は嫉妬していたのかもしれん。星ひかるがトリ。客はガラガラ。前回が連

日大入りだけに落差が大きい。2日目、また遅刻する。本当に疲れている。





音響さんの仕事

音響さんの仕事は初日のみ。踊り子が書いた音楽構成のメモを見ながら、踊り子が持

ってきたCDを8トラテープに録音してつなげてゆく。まず一人分の小判テープが完

成。順調にいけば二回目公演の終わりぐらいには、前半、後半の大判テープが完成す

る。前半と後半の間にはコントがはいる。一人目の照明をやってる最中に、うしろで

二人目のテープを作ってるという状態で初日はとにかく慌ただしい。踊り子があとに

なって曲を差し替えてくれなどと言ってくるときはなお大変だった。





白石奈央 新しい演目で本人はやる気十分だが、内容的には普通だった。この人はい

     つも舞台に意欲を持っているが中盤からダレル感じ。影山がいなければこ

     の娘を好きになってただろう。人格は素晴らしくステキな人。

石野えり 尼が蝋燭を持って登場し蛸のように悶える(笑)。ブラックライト使用の

     ボディペインティング。客に塗らせる。

水月円(ミナヅキマドカ)演歌。若くは無い。しっかりしたプランを渡されて助かる。

     内容も良い。中山みゆきと同じ系列の人。ピンク映画系列の踊り子は意欲

     的で構成、演出でみせる。華はないが俺は好きだ。照明やってて楽しい。

南英理子 丸顔で色が黒い。アイドル系の踊り。今回の中ではインパクトが弱い。

渚真琴  アメリカ国旗の様な服にシルクハットで踊っている。明るい。笑顔が良い。

モモコ  若くはないが、舞台は凄くエロチックで可愛い。初日は手持ちライトを

     使ったりしていたが、俺にアドバイスを求めてきたりして結局やめた。

     渡未来に匹敵する踊り子。ショーパブダンサーからの転身らしい。

中山みゆき 前回の演目が凄すぎただけに今回は普通過ぎる。スッピンの顔を見たが

     まるで別人だった。黒くてソバカスだらけだった。女は虚構の産物か?

星ひかる タライで水浴。ハッピを着てお祭り風の演目。セットに手間がかかるわり

     には面白くないのは片山氏の照明プランに問題があるからだろう。やりた

     いようにやらせてほしい。



8/3〜8/6

 照明にどうしてもノレない。全くダメ。今週は諦めるしかない。



8/4

 早朝9時30出社。四谷怪談上演のため、花岡、星、チーフ、今林氏と四谷のお岩さ

んのお参りにゆく。暑かった。片山氏も後から来た。踊り子は電車の中ではハデで目

立つ。深夜、清水ひとみの演出で四谷怪談の打合せ。矢野社長は傲慢な男なり。ファ

ミーの社長と大違いだ。小坂さんも支配人も、後で事務所で飲む時にグチをこぼして

いた。せっかく作った音楽テープも、社長の気まぐれで再編集せねばならなくなる。

朝方まで支配人と飲む。



8/5

 また深夜の練習。大道具きてセットする。大まかな練習。社長は来ず。演出の清水

が来ないのも納得できない。だいたい演出などできるのか?モーター式の回転戸板も

来る。重い。連日泊まり込みで労働。こんな状態で照明に集中できるわけがない。



8/6

 早朝、フライデーの撮影。カツラ屋来て花岡のお岩さんメイクする。真っ白けで可

愛い。社長が来ていろいろ文句を言う。文句を言う前に自分で先に指示してほしい。

連日の泊り込みで非常に疲労困憊した。家に帰ったら流し台の下に仕掛けたネズミ捕

りシートに太ったネズミが半分腐って捕まっていた。臭いが凄い。ハエなども周辺に

無数に捕まっていたので唖然とした。





慌ただしい日々

道劇で働いているあいだは仕事に忙殺され世間から隔絶された感覚だった。知らない

あいだに死んでいたのはネズミだけではなく、アパートの大家のおばあさんも死んで

いたのである。その死を知ったのは3年ほどあとのことだった。





8/7(日)

 南英理子がなぜか欠勤。その上、3回目に白石奈央が倒れて踊り子がたった6人に

なる。コントの池田も滅多にない休暇中で、ケンモチと三浦の2人は大変だった。白

石はベットが終わってオープンになっても立ち上がれずそのままへたり込んでしまっ

たらしい。岩井氏が照明室から降りて連れ帰ったらしい。俺は熟睡しているところを

チーフにたたき起こされてなにがなんだかわからぬまま照明室に走らされ、続きの照

明やったのだった。



8/8(月)

 休み。秋葉原へ行く。以前から考えていた照明室用の切り替え装置の材料を買った。

これで不便なライトのコンセント差し替え作業が効率よくなり、照明の幅も広がるは

ずだ。1卓花道、2卓切替えトップ 、3卓ボントップの3ラインを、フリーの明か 

りに切り替える装置である。電子部品店を徘徊し、トグルスイッチ3個、シャーシ、

リーマ、ゴムブッシュ、T型プラグ、ネジ式端子板等を買う。だいたい5000円程

度かかる。領収書は一応もらったが、チーフは会社では経費を出さないと言っていた

ので自腹でやるしかない。ジャンク屋の奥にある「壺」という店でまずいカツドンを

食いビールを飲む。猛暑に飲むビールはうまい。



8/9(火)〜10(水)

 分配器の製作はこの2日間の裏方作業の合間にほぼ完成した。シャーシに会社のド

リルで穴を開け、ハンダづけなどもする。コード類や足りないT型プラグは余ってい

たものを流用する。衣装を上げたりセットを組んだりしながらでも効率良くやったの

でなんとかなった。休憩時間は部屋を占領して迷惑をかけたくないので作業しなかっ

た。みなそんなものが何になるのか、突然何を始めたのか、という顔をしていた。こ

の簡単な装置で照明室の卓の上がすっきりし、切り替え時間が短縮し、作業が楽にな

り、表現の幅が広がるという事実は照明マンでなければわからない事だ。今まで無か

った事がおかしい。ほんとは卓そのものを改造したかったが、リースみたいなのでで

きなかった。



分配器配線図

             +―+ +―+ +―+

    +――――――+―+―+―+―+―+―++

 2  |● ● ● | ● ● ● ● ● ●| ← 半田付け

    ++―+―+―+―+―――+―――+――+

     | | +―――+―――+―――+

     | +―――――+―――+

     +―――――――+



     IN IN IN   L ボ L 切 L 花

     3 2 1   3 ン 2 替 1 道  ← 圧着端子

               TOP   TOP



    +――――――+――――――――――――+

 1  |● ● ● | ● ● ● ● ● ●|

    +↓―↓―↓―+―↓―↓―↓―↓―↓―↓+

     SW3 SW2 SW1   SW3 SW3 SW2 SW2 SW1 SW1  ← 半田付け

     2 2 2   3 1 3 1 3 1



 IN1……1卓3番から L1〜3……パネル上T型プラグ

 IN2……2卓4番から

 IN3……3卓6番から SW1〜3……25A 125V AC NIKKAI S-333



 接点保護のためOFF状態で切り替える事



8/11(木)

 四谷怪談、初日。小坂氏は不機嫌で不愉快なり。4回その部分だけ照明室に入った

が、他の踊り子はどうでもいいような態度が腹立たしかった。朝、表に水を撒いてい

るとき、影山がノーメイクできた。ジーンズ姿だったし一瞬誰だかわからず。声をか

けられて驚いた。あの影山を連れてデートしたら楽しいだろうなと思っていたら、す

ぐにいつものキラキラしたハデな影山に戻っていた。いったいどんな魔法を使ってい

るのか。



8/12(金)

 装置取り付け、片山氏は装置の取り付けを渋っていたが岩井氏はすぐに便利さを理

解して取り付けに賛成した。結局使いやすいのでOKとなった。片山氏は保守的なり。



冴木しおり 久々だが元気だった。アラビア風?のおどり。

沢村麻衣子 新人?美人ではないが挨拶はしっかりしてるし好感がもてる。

      舞台より楽屋のほうがよい。

白石奈央  リボンの騎士。照明は難しい。今回は調子がいいようだ。

渚真琴   ありきたり。だが、だんだん良くなってゆくだろう。

名鳥舞   プロポーション抜群の人。踊りもまあまあ。メリハリのある構成。

花岡舞と星ひかる 頑張っている。星が「オネーチャーン!!」と絶叫する。四谷怪談

         でなんでレズなのかよくわからないが、お岩さんに、お袖という

         妹がいたのは事実のようだ。ラストでは森進一の曲で帰ってゆく。

影山莉菜  以前やった演目。



8/13(土)

 コンビニで影山にばったり会った。「影山莉菜でもコンビニで買い物するのか」と

いったら「みんなと同じもの食べてるよ」といって笑ってた。もっといろいろ話した

いけど、会話が続かない。ヘンリー・クーパー Jr「アポロ13号 奇跡の生還」… 

…ドキュメントは面白い。コンラートシュピンドラー「5000年前の男 解明された凍

結ミイラの謎」……読んでる途中。



8/14〜8/20

 花岡舞は浜名の爺ばかり信用して他の人間をまったく信用していないようだ。セッ

ティングの音が大きいとか、セットが曲がってるとか思い切り嫌な顔をして、注文す

るようになった。お参りにまで行って、何日も前から連日連夜準備して疲れもピーク

のときに心根のがさつな女だ。セットのセッティングは2人でしかできず、戸板を回

転させるコントローラーは浜名に担当を任していたのだが、それは他の役に立たない

浜名にやり甲斐をあたえるためでしか無かったのだが…。本人も踊り子もそれがよく

わかってない。見えないところでどれだけしんどい思いをしているか踊り子は知らな

い。

 書かなかったが今年の夏は異常に暑かった。雨も無かった。しかし、たった一回の

雨と共に涼しい秋が訪れた感じだ。各地で給水制限が解除された。



8/21

 初日。今回はトリの影山と、メインの星、花岡「四谷怪談」が先週と同じなので楽

だった。泊り込む必然性もなし。

 幕の開け閉めの事で浜名のジジイと口論になる。チーフも浜名も片山も頭が固くて

どうしようもない。正論と正論の対立ならばわかるが、こちらの正論を馬鹿げた戯言

で押さえつけられるのだから納得いかない。理不尽だ。基本的にコント後にセットが

無い場合はコント中に幕を閉めないというルールがある。またプランナーの小坂さん

にコントの人間に舞台を空間を広く提供するために幕を開けておけと言われている。

しかし彼ら無能な清野チーフ、浜名、片山は言われたことだけやって、自分の頭で考

えない馬鹿なので応用だとか例外に対処できない。俺は open の終わりで幕を閉め、

コント中はずっと閉めておくべきだといったのだが結局、コントの途中でゴソゴソと

幕を閉めて、影山の仕込み、床掃除、ゼラ変え、次の踊り子の進入などをすることに

なった。アホか!

 浜名のじじいは「我々は言われた事だけやっていればいいんですよ」と悟ったよう

な顔で俺に説教した。あまりの馬鹿さ加減に俺もさすがに切れて「うるせい糞じじ  

い」等々散々罵倒してやった。「貴様のような口先だけの詐欺師野郎に老人特有の説

教をたれたくないわい」云々、ありとあらゆる罵詈雑言の数々。この後、ジジイは頭

に血が昇ったのか四谷怪談のセットを忘れて、俺は一人でセットをせねばならなかっ

た。なんとかなったがジジイは頼りにならなかったので池田を呼んで手伝ってもらっ

た。

 言われたことだけやる、何も口答えしない。それが男の仕事というものか。犬にも

劣るぜ。



8/22

 片山氏が裏の時、セットを間違える。それはいいが自己弁護をするのが許せない。

失敗したら、口を動かす前に動いてもらいたい。影山、また舞台の上で「音大きくし

て!」と怒鳴る。音を上げて影山のステージのノリがよくなるならいくらでも上げた

いけど。事務所からはインターで「もっと下げろ」といってくる。



大信田ルイ   性格大変良し。踊りも気合が入っている。剣の舞

木村里穂    ちょっとふくよかな娘。大信田と同じTSの娘。踊りはアイドル系。

        バストが大きい。

あやせもも   ふくよかな感じ。

日高しおり   音楽の選曲が凄い。演目「阿部サダ」照明が難しい。性格が狷介。

秋野くるみ   踊りが一番うまい。今回は何だか物凄くきれいになった。コントの

        連中もきれいだといってる。この急激な変化は男でもできたのか?

花岡/星/影山 もう書きたくない。



 浜名の馬鹿と喧嘩する。馬鹿のくせに悟ったように無意味な事をダラダラ説教する

ので怒りが爆発した。おまけにセットをわすれて俺一人でセッティングせねばならな

かった。

「我々は言われた事だけやってればいいんですよ」と、まだ言ってる。この男の人生

哲学なのか。公務員でもそこまで間抜けじゃないぜ。この男の戯れ言には糞程の価値

もない。



すこしぐらいの仕事ができて

そいつに腰をかけているやうな

そんな多数をいちばんいやにおもふのだ  by宮沢賢治



8/25〜26  2日間連休。寝て過ごす。



8/27〜28

 仕事がつまらない。小説も進まない。木村里穂が抜けて「藤田くるみ」来る。普通

っぽい人。影山が影山部屋でドアをあけたまま寝ている。ちょっと小さく口をあけて

愛らしい。



8/29(月)

 夜、渡未来が練習にきた。結婚するとのこと。次が引退興行になる。俺が燃える数

少ない踊り子なので悲しい。音楽は良かった。一曲目がレッド・ツェッペリンの「天

国への階段」。歌曲の「アヴェマリア」グノーでなくシューベルトのほう。ソプラノ

は不明。オープンもいい曲。踊りは心がこもっていて素敵だった。最高の照明にして

やりたい。渡から彼女専用のライトの設置も指示される。暗転スタートのシンプルで

いい演出。

 

8/30(火)

 朝から渚真琴も練習に来ている。振付のオヤジはガマ蛙のような男だ。



8/31(水)

 照明、うまくできたと自己満足しても踊り子がフィナーレでブスッとしていたら全

く台無しな感じで嫌になる。辞めたくなる。そんな踊り子は暗転にしたくなる。



9/1(木)

 山田が結婚した。昔一緒に淡路島にツーリングに行ったことが懐かしく思える。  

「俺は結婚しない」とか言ってたが、葉書には闘牛士のような恰好をして新妻と一緒

に真剣な顔で写っていた。結婚祝いの手紙と一緒に少ないが1万円を入れておいた。

これが精一杯の金額なのでしかたがない。

 宮地氏への借金もようやく残り3万円となった。



9/2(金)〜9/4(日)

 渡未来は本当に今週で引退らしい。影山莉菜とファン一同とトミーとかいう人から

入口に花が送られてきた。照明にはものすごく集中してやっている。裏方は始終張り

つきっぱなしでミスの無いようにしている。これほど舞台が充実していて緊張感のあ

る踊り子は他にいない。オープンでは照明も好きなようにアオリまくる。(通常オー

プンはつけっぱなしだが、全身全霊を込めてラストまで手を抜くつもりはない)観客

も盛り上がっている。



星ひかる  アメリカ風ボディコン。電飾。オープンはコニー・フランシス。

氷室真由美 表情が暗い。もう何年も同じような演目をやってる。本舞台のみのベッ

      トでボンまでこない。

清水まみ  前回と同じ。大陸系の音楽。照明は何故か一番キマって得している人。

渡未来   怒りっぽかったがいい仕事をしていた。いい女だった。

翔見磨子  アクトレスワールド系の人は踊りよりショー構成に力を入れている。コ 

      テコテの演出だがインパクトはある。笑顔のいい人。

日向レイ  日焼けして髪が黄色くて唇がうすピンクの目立つ人。

青山リカ  踊りはヘタだが色白でやせて背が高い美人。笑顔がいい。

名鳥優  「ナチスの女」露出度の低いわりにはロングランになった。照明をやるの

      は今回が初めてで初めは緊張した。なんかオープンの笑顔がすごくいい。



-------------------------------メモ-----------------------------------

【裏】   64パープル,本舞台パープル,センター赤ノママ

星ひかる  電飾   衣装サゲナイ

氷室真由美 電飾閉め

清水まみ

渡未来   64生ヌキ,ブラはずし,イス上手,ベット着

      帽子下手、64パープル,イスサゲ

コント(6分)

翔見磨子  イス上手ダシ(背電飾側)

      open衣装撤去、4発

日向レイ  open4発撤去、本舞台 赤

青山リカ  ドレス脱がす アゲル ,(ベット)64生ヌキ,名鳥衣装セット

         (open着 黒金リボン ,白羽)

名鳥優   電飾、スピナー、セット

      64赤、インター、衣装上げ

      open撤去

【照明】

星ひかる  電飾 (1)アオリ   (2)赤ムード   暗転

         青バックサス 2曲,赤トップ

氷室真由美 (1)赤SS+スタンド  タイミングアオリ  暗転

      (2)暗めアオリ

      (3)ムード 〔ピンクピン〕

清水まみ  大陸系

渡未来   FQトップ  赤系 タイミング アオリ (64生)

      64生,暗転ストロボ,ピンクピン

      ベットイン 青バックサス →本舞台(8)パープル

コント(6分)

翔見磨子  (1)タイミングアオリ (2)ヨコピン+1-2

      (3)這ってくる 赤バックサス

      (4)盛り上がり ボン全開→青バックサス ノミ

日向レイ  B(4発) (1)ユックリアオリ(タンゴ)

      (2)トメ (3)別れの曲 ベットイン

      (4)青バックサス

青山リカ  静か 青系  途中いなくなる 消さない

名鳥優   電飾,赤SS,スタンド,スピナー

   ユックリ バラエティ +トップ /ヨコピン+前明かり

  前ニクル  パーライト +赤バックサス

   下手 64生

  ゲットアウトでスピナー停止

   暗く 赤SS+スタンドノミ(電飾弱)

  盛上ガリ 暗転準備しながら盛り上げる(電飾、スタンド消す)

   暗転 クーラー停止

   インター 赤SS  64(赤)

   立つ センター(7)ITO

   座る 3-3 (パープル)  這ってくる

   ボン 1-5 +場内(2)ITO

  盛上ガリ 赤ボントップ +本舞台(8)ITO マスターカケル

  目隠トル 青バックサス (赤トップ消す)

   立つ ピン (マスター消す)

  盛上ガリ 全ITO ピン

------------------------------------------------------------------

9/5(月)

 今、外で猫が鳴いている。秋なのに発情している。雌と雄が交互に「アウー」とリ

ズミカルに鳴くのが面白い。



9/6(火)

  7(水)

 休み。夕方、照明の勉強のため、浅草ロック座に行く。浅草は仏壇屋の多い奇妙な

街なり。交番で堂々と場所を聞く。困った顔で教えてくれた。無愛想なおっさんに6

千円払って入場。高すぎる授業料である。レビュー形式なので踊り子が10人以上同

時に踊るパートもある。オープンもなく踊り子一人一人の個性も分かりにくかった。

空間の広さと照明の多さに圧倒されたが、天井が高すぎて道頓堀ほど照明の密度を感

じなかった。道頓堀はあの狭さだからこそいいのだなと思った。踊り子を見ずに照明

ばかり見ていたので踊り子に同業者と見破られたかもしれぬ。が、ロック座とは踊り

子の交流が無いので(華美は一度出たことがあるそうだが)顔も知らぬ踊り子ばかり

で安心して見られた。ハダカなんかは遠すぎてまったく見えない。長い花道を回転し

ながら移動する盆があったが、毎回使っているので効果的ではないと感じた。だいた

い舞台が高すぎないだろうか。照明のゼラチンは緑や青などを多用していたし、道頓

堀では絶対使わないような色のゼラチンもあった。基本のパープルは道劇の86でな

く、一段浅い85を使っているようだった。ITOも、種板やゼラチンの色が変わり

ながらコンピュータ制御でどこにでも光を持っていける。それが4台。回転するシャ

ワーマシンが3〜4台。スピナー4台も常設固定だし、本舞台壁面に常設されている

ミラーボール、ストロボ、ミニブル(のようなもの)、バックサス等の数も道頓堀の

比では無かった。基本のライトも1キロワット級があたりまえのようだし、あれじゃ

ゼラの劣化も激しく差し替えが大変であろう。照明の細かいセンスでは負けたとは思

わないがフィナーレのコンピュータでのアオリはさすがに人間業ではなく、即興の手

動照明では絶対にできないアオリで、その部分だけは「参った」と思った。フランス

座にも行きたかったが、永井一葉が出ていて顔を覚えられていたら嫌なので入らなか

った。



9/8(木) 渡未来だけは真剣にやっている。

  9(金) 浅草ロック座を見た後では、道頓堀の照明は寂しく思える。狭いだけ

に光の密度はあるのだが…。負けてはいないがもっと光が欲しい。4卓目を追加して

足で操作すればなんとかなると思うのだが……まあ無理だろう。



9/10(土)

 楽日。渡未来の最後の日。踊り子たちが渡のために寄せ書きなどをしていた。俺も

あたりさわりのないことを書いておいた。俺は4回目の裏を外されて少々渋っていた。

最後まで彼女についていてやりたかったからだ。実際、片山氏は最後まで失敗して渡

未来を怒らせていた。俺も片山氏がなんでこんな大事なときにJRAのお馬ちゃんに

うつつを抜かしているのか理解できない。渡が怒るのももっともだ。俺は3回目の照

明で事務所からインターで音を下げろと言われて思い切り小さくしていた。しかし、

渡未来の時になると事務所を無視しておもいきり音を上げた。暗転の中から静かに浮

かび上がってくる渡未来……。この時の照明は今までで最高の照明だった!!!舞台

に全身全霊集中していた。タイミングは0.1秒の狂いもなかった。まるで指先に脳

細胞が直結しているように思いどうりにいった。グレン・グールドかホロヴィッツの

心境だ。あの「天国の階段」で踊れる渡未来も凄いが、その照明をやる俺も凄い。こ

れほど充実した照明は今までなかった。こんな照明はもう二度とできないかもしれな

い。自分のエネルギーを全て注ぎこんだ気がする。観客はみんな渡未来のファンだっ

た。フィナーレで彼女は名鳥優に花束を渡された。4回目は俺は雑事に追われ事務所

のモニターで見ることしかできなかった。彼女の出番は名鳥のはからいで最後に変更

されていた。タンバリンとバクチクと紙テープの嵐の中で渡未来は引退した。泣いて

いた。亭主も祝福されていた。

 2回目の裏の時に、彼女は舞台袖で「今週はお互い息が合っていて一番良かった  

よ」と言った。俺は「はい」とだけ答えた。もう少し出会うのが早かったらと思う。

 泊まり。焼肉ハウスに行く。4時まで小坂氏喋っている。疲れた。



9/11(日)〜13(火)

 片山と怒鳴り合う。あれがプランナーなのは疲れる。



南まや   踊りは激しい。陽気な人。体育会系の男と付き合っている。

白石奈央  中国風のカンフー踊り。今回一番照明がキマル。可愛い女性だと思う。

翔見磨子  タンゴ。アクトレスワールド の踊り子はオープンが激しい。笑顔がい

      い。

名鳥舞   今回で引退だそう。感慨深いものはなぜか無い。渡の時ように燃えな

      い。銀色の靴を履いて踊りだすという内容。最後に靴にピンを当てる。

渚真琴   来週の出し物を今回やってしまい、社長命令で差し替えとなる。従って

      照明はキマラない。来週頑張ろう。

御幸奈々  前回よりは愛想がいい。照明もマアマア決まる。ポスト影山というだけ

      の事はある。人気もある。好きなタイプの顔だが…なんとなく苦手な人

      だ。

名鳥優   雪女。露出度はやはり低いので彼女が出ると帰る客も多い。辛いと思う。

      女優向きの人。



14〜19(月)

 今回はホントに照明がキマらなかった。白石だけ良かった。疲れた。

 たこやき屋のオヤジは面白いが、そこに高校生ぐらいのアルバイトの女の子が夜だ

けいる。ショートカットの可愛い娘で俺はかわいい娘だなと認識している。ときめき

なる感情は随分久しく無いし、今も無いのだが、恋に恋するというか、そのたこやき

屋の娘にぼんやりとだが好いてみたいなと思ったりする。しかしそんな戯れな気分も

すぐに覚めてしまう。もう本気で人を恋することは無いかもしれない。俺の青春は終

わったのか。白石や影山の裸を見てときめかないんだからどうしょうもない。まあい

ちいちときめいてたら仕事にもならんが。



20(火)〜22(木)

 名鳥優が従業員一同に1万円くれた。嬉しいが、つくづく我々は彼女達に食わせて

もらっているのだと認識して複雑な心境だった。この日は 17000 円の収入があった。

コントの連中も客(渡辺氏という変人。税理士との事)に金をもらっていた。名鳥優

の「雪女」は楽日になってようやく完全に充実した照明ができたのでかろうじて満足

だった。

 名鳥舞引退。彼女も最後に満足いく照明をすることができて良かった。彼女は引退

後専門学校で勉強するとの事。舞台が終わった後、舞と優が表に出てファンの一人一

人に挨拶しているのが印象的だった。

 渚真琴の前日練習で大道具のセットが大き過ぎて入らず、大道具屋のオヤジと演出

のアラーキーみたいなオヤジと巨漢の小坂氏が入り乱れての喧嘩になった。結局は図

面を確認しなかったチーフの責任なのだが。



桜井果穂  上野スター劇場の新人。小学生のような顔をしている。しかしこの娘も

      なんか見た事がある。たしかセーラー服を着て放尿していたような。気

      のせいかもしれんが。

白石奈央  前回と同じ。良い。性格、素行も最良。奥さんにしたい踊り子。楽屋の

      身の回りをきれいに片付けていくのはこの娘だけと、コントの池田も誉

      めていた。

南條沙樹  相変わらず身体は柔らかく顔は角張っている。

立川リタ  踊りが上手すぎて照明が難しすぎる。犬のゴンも元気。

裸女    池田と仲がよい。池田、本気で惚れているようだ。

麻美   「はいからさんが通る」の紅緒のかっこうをしている。

渚真琴   実質的にメイン。本人も気合が入っている。タイトルは「私はペニスの

      奴隷」照明には気が抜けない。

  ●クーラー停止

  (1) 生ピン カミシモ系 赤バックサス

  (2) アカシアの雨にうたれて パープル・ブルー系青バックサス 曲終【暗転】

  (3) インターで 赤SSゆっくり

  (4) SM照明 本舞台ITO(7)青 死んで【暗転】



影山莉菜  青い服を着て踊る。俺はなぜか影山部屋のハンガーに吊るされたその服

      を見て悲しくなった。とても孤独な気がした。本当は力になってやりた

      いのになにもできない。どうしてもいがみ合ってしまう。この人とは出

      逢わないほうが良かったのかもしれない。従業員じゃなく単なるファン

      だったらよかったのだ。影山は誰の意見も聞かず、企画物はできないと

      言っているらしい。もう彼女は行き止まりなのか?もっともっと飛躍で

      きるはずなのに。彼女には失望しっぱなしだ。そう願う俺はおこがまし

      い奴だろうか。鬱。



23〜28(水)

 涼しくなった。やっと秋だ。

 コントの連中のために脚本を書く。池田、剣持、三浦の3人はいつも真剣に頑張っ

ているのでやる気になった。池田と剣持の究極の持ちネタである「キチガイの真似」

を舞台でやるために作ったものだ。核廃棄物を捨てた原発の2人が、酔っぱらいのホ

ームレスに廃棄物を食わされてキチガイになるという安易な話だが、ウケるウケない

は別として、インパクトがあるはずだ。これを見た人の心に、彼らの存在が強烈に刷

り込まれるのは確かだ。これがきっかけとなって成功してくれたらなにより嬉しく思

うが。

 眼鏡を買う。43870円なり。

 白石が事務所にきて自分の写真をみて嫌がっていた。俺も思うのだが、白石は写真

うつりが非常に悪い。本物はかわいいのに写真では表情が暗く老けてみえる。撮られ

るとき緊張するのか、カメラマンとの相性が悪いのか。たしか矢沢裕未も写真より本

物のほうが良かった。

 踊り子はともかくゴンはかわいい。俺の腹の上で寝ていた。



9/29(木)

 影山莉菜とは話さない、顔も見ない。ポーカーゲームで5万損したとか10万儲か

ったとか、ギャンブルにのめりこんでいる。ステージに対する意欲が見えない。彼女

をどうしても認めることができない。

 夜、長田(オサダ)ゼミナールの練習。縛られるのは妖華(あやか)。一度記者会

見で見ている。34分ぐらいの長い出し物。SMとしては今までで一番本格的なもの

だ。長田氏はSM界では有名な人らしい。以前、寝室がわりに寝泊まりしていたSM

クラブのスタジオクイーンを思いだすが、長田氏のは完全にショーだなと思う。縄の

使い方は絶品。



10/1〜10/7

 剣持に頼まれて彼の教習所のネタを書き直しする。

 照明に情熱がなくなった。もうダメだ。面白いのは長田ゼミナールだけ。影山莉菜

など顔も見たくない。話も挨拶もしない。傷つけあうだけの2人。長田さんは舞台と

ふだんがぜんぜん違う。どちらが本物の彼なのだろうか。すべてが演技か。舞台では

カツラをかぶって元気だが、カツラをとるとじいさんになって、歩き方もトボトボと

下を向いて歩く。世間をあざむくエロ事師の知恵だろうか。

 影山が出口のところで、またスクーターにまたがっている。いつもほんとは話しか

けたくてたまらないが話す言葉が思いつかないし無視するしかない。影山が気づいて

なぜか手に持っていた焼き鳥をくれた。気をつかっているのだろうか。俺は影山のい

いステージが見たいだけだ。渚真琴にもピザの残りをもらったことがあったな。



冴木しおり 今回の演目はつまらない。バンカラだが実際はすなおな性格。

片瀬舞  「天女」の演目。池田の話では片山氏と関係があるとの事。ホントか?

沢口友美  アジア風の演目。どうも精彩に欠ける。楽屋では愛想が良いのだが。

      朴訥。

水沢ルイ  明るいねえちゃん。ゴットねえちゃん。

星ひかる  昔の演目。なんかガメツい女になった。俺、以前はけっこう可愛い奴だ

      と思っていたが、最近はもうこの姉妹は完全にスタッフをなめていると

      思う。いくらなんでもいきがりすぎ。たくさんのファンに愛されている

      んだから、俺に愛されないぐらいなんでもないだろう。

影山莉菜  演目は和風。舞台での表情はいい。ただ進行がワンパターン。新しいも

      のに挑戦する莉菜が見たい。

オサダゼミナール  妖華も長田氏も良い。照明も決まる。やってて楽しい。



10/7〜8

 ピンサロに行ってもつまらん。女が嫌になった。だいたい月間パソコン通信の編集

部以来、女につかわれるのにはうんざりしている。女は個のレベルでしかものを考え

ない。組織より己の感情を重んじる。市川房枝が死んでから何年たったか知らんが、

いつまでたっても真の男女同権は実現せんな。

 影山がどこからかオープンリールのデッキをもらってきたが、部品が足りなくて使

えない。影山に「どうしたらいいかな、監督ぅ」ときかれるが「わかりません」とそ

っけなくしてしまう。ほんとは俺が部品を買いに行ってやりたいけど、時間がない。



10/9〜10

 コントの三浦が生意気なので、もうコント部屋には行かないことにした。今までは

利害関係の無いコントの連中と話している時が休息の時間だったが、仕事の上でしが

らみが出来て、連中と話しているのもおっくうになった。特に三浦は人の話は聞かな

いし、わがままなのでもういいかげん頭にきた。今後は無視するつもり。

 とうとう楽日まで影山莉菜の照明にノレなかった。もうダメだ。完全にダメだ。俺

は彼女を憎んでいる。彼女も俺を憎んでいる。出会わなければよかった。誰よりも誰

よりも好きなはずなのに!

 片瀬や沢口は性格が気楽でよい。好きにならないように気をつけている。

 結局俺はどこに行っても孤立。それが気楽でいいのだが。

 小説書けない。書けない。書けない。いつになったら満足のいくアイデアが出るの

か。今までに浮かんでは消えた無数のアイデアは、生まれ出た瞬間に虚しいものに感

じられ捨てられる。9人のキャラクターも何度も更新されてゆくが、だんだん色あせ

て感じられるようになる。俺は何が書きたいのか? 何が書けるのか? 何も書けな

いのか? 駄目なのか?自殺か?宗教か?小説だけが生きている理由。





コント部屋

コントの連中の控え室だが、シャワー室があり踊り子がバスタオルをまいただけの姿

で頻繁に出入りしていた。つねにわけのわからんものが散乱している汚い部屋だが、

従業員部屋は狭いのでぼくはほとんどこの部屋で休憩していた。





10/11〜15

 コントの連中とちょっとした事で口論になり、以来コント部屋には行かなくなった。

居場所がなくりなんだか劇場で孤立してしまったようだ。いつもの事だ。いつもそう

だ。俺はいつもそうだ。本質的に人間ぎらいなのだ。あれ程親しかった池田とも話は

しないし、目を合わせるのも不愉快なのだ。もうダメかもしれない。だれとも付き合

わなくてよい環境で本を読んだり小説を書いたりする生活がしたい。

 バーボンの「ブッカーズ」を渋谷の酒屋で見つけて買った。強烈だ。甘い香りが最

高によい。12000円。ストレートであおる。マッカランよりはマズイ。

 本は最近たくさん読んでいるが、筒井康隆の「文学部唯野教授」はなかなか面白か

った。講義内容と大学内部告発が交互に語られ飽きさせない。



10/17

 会社休み。夕方、宮地氏と本屋、喫茶店、図書館などいく。地域センターの仕事は

もう干されたようだ。



10/18 (辞意表明)

 美鈴がちょっかいかけてくるが無視。もう女と口論する気なし。完全にやる気なく

なる。

 辞意表明する。1月中に退社予定。次に何をするか…真っ暗闇なり。浜名の馬鹿と

口論した後じっくり考えて決めた。照明に燃えることもなくなったし、照明が自分の

思いどうりいかないし、誰からも孤立した存在でもあるし、辞めるしかないと考えた。

このチャンスをのがせば言いだすきっかけが当分延びるので思い切って支配人に言っ

た。後任の教育がすみしだい辞める。踊り子や社長など全員出席という忘年会にもこ

れで行かなくてすむとホッとしている。……さてこの冬はどうやって生き延びようか。



10月19

 昼間仕事しながら、とにかく小説を進めようとアイデアを練っている。今日はキャ

ラクターの相互関係についてのいいアイデアが出た。それに見合ったストーリーを今

後考えるつもり。劇場ではマイペースでやっている。だいたい一人ぼっちで読書した

り小説のネタを書いたりしている。



五木麗奈    なんとなく合わない。仲良くしていない。

白石奈央    openで照明室をみるので照れ臭いから目を合わさないようにしてい

        る。

美鈴(みすず) 単純で生意気な人。従業員部屋を電話ボックスがわりにするので叱

        った。

花岡舞     妹(星)よりは頭がいいのだろう。話さないからシガラミ無し。

モモコ     もう好きになれない。

芽芽      頭は良さそう。少しダークだ。前回より凄く痩せていた。

中山みゆき   本当にいい人である。いつも真剣で、明るくつとめている。

星ひかる    無視してたら近寄らなくなった。それでよし。



 楽日あたりに、俺が従業員部屋で映画の本を読んでいたら、芽芽と中山みゆきが声

をかけてきた。たぶん俺がさびしそうにしているから声をかけてくれたのだろう。優

しいやつらだ。「映画好きなの?」「ベルリン・天子の詩っておもしろかったよね」

「うん、良かったよね」とか言ってた。最近映画も観ていない。時間が皆無。観るエ

ネルギーもない。映画作りたい。



 10月24日(月)

 最近は、出社して食事したら、舞台か照明室の床に転がって寝る事にしている。今

日は朝6時まで小説案をやっていたので疲れていた。俺が照明の時は片山氏が裏なの

だが電飾の幕を閉め忘れたりして非常に腹が立った。せっかく気合を入れているのに

台無しだ。嫌になる。2回目休憩中に従業員室でオアシスポケットで一気に小説のプ

ロットを書いた。



水原アンナ  新人みたいだが。あまり意識してないからわからない。

仁科愛美   すごく太っている。痩せたら美人だろう。挨拶が馬鹿丁寧な人。

織田とも子  踊りもいいし感じのいい人。好感がもてる。先週の美鈴の友達らしい。

       この娘は頭がいいと思う。しっかりしている。

山崎しのぶ  寿司屋の娘。相変わらずクール。楽屋ではかわいいかも。

桜井果穂   ロリコン娘。可愛いがこのタイプは趣味ではなくなってしまった。

小林なつみ  冴木しおりとそっくりな女。

花岡舞    セイリュウ刀を持って踊っている。

桜木桃香   トリ?。かなり長身。生意気なのはいいが、脳が子供すぎる。



10/29(土) 職場はつまらん。疲れて小説進まず。



10/30(日)

 3回目の照明、花岡舞のオープン中。幕を閉めてトリの桜木桃香のミラーボールを

セットしている時、3卓の6番のミラーボールのフェーダーを上げた途端、主電源の

ブレーカーが落ちた。場内はおろか楽屋まで真っ暗になった。何とか復帰させるが3

卓全部が原因と判明するまであと2回ほど落ちた。結局コントを挟み、5分程遅れて

復帰。桜木とフィナーレは3卓ナシでやる。4回目の岩井氏は3卓のコードを引っ張

りだして、延長コードで1、2卓系に入れてなんとかカバーしていた。終演後、あれ

これ調べてみて、調光卓も替えてみたが、3卓系の6番のラインがおかしいというこ

とで、ハッキリした原因は不明だった。漏電のおそれもあり修理屋に頼むしかない。

楽日並みに疲れてしまった。



10/31(月)

 仕事が忙しくなり、家でも小説の方はさっぱりダメになって落ち込む。職場で寝れ

れば幸いだが、多忙な楽日ではそうもいかず。

 上野のママが来ている最中だったが、アホの桜木桃香が衣装を下げろだの、返事し

ないで無視しているだの文句を言うので「この野郎!!」とまた怒鳴ってしまった。支

配人にも怒られた。とりあえず納まったが、出番前の踊り子を怒鳴ったのは反省はし

ている。後で考えてみれば、野郎ではなく「アマ」だった。コントの連中も今回ばか

りはヒヤヒヤしたという。今回はたとえクビになっても謝るのは絶対にイヤだった。

渡未来や渚真琴と違いこのガキは理不尽すぎるし、わからずや過ぎる。こちらが怒っ

ている理由がわかっていない。こんなアホもう怒る気もせん。ステージも自己満足的。

だいたい矢沢裕未がいなくなってシフトしただけのことで、まだトリとるウツワじゃ

ない。影山部屋なんてつかわせるな。矢沢も昔、舞台ソデで桜木の事を「わがままな

娘ですみませんね」とフォローしとったわい。

 ゼラ替え、前日の停電の原因であるラインの配線の補修をする。深夜まで作業。





桜木桃香

これではいくらなんでも桜木がかわいそうなので書いておくが、ステージは悪くなか

った。たしか宇宙人ぽい格好をして踊っていたと思う。彼女も道劇でトリをとるとい

うので気が張っていたのだろう。桜木は、踊りのときのハイヒールと、ベッドのとき

のハイヒールが2種類あり、間違って片付けて怒鳴られたこともあったな。だいたい

従業員が踊り子の衣装等を運ぶというシステムがおかしかったのかもしれん。やりは

じめたのは、おせっかいの浜名のじじいらしい。





11/1(火)

 寒くなってきた。初日。2回目照明だが、また裏のドタバタでイライラして前の二

人ぐらいまでガタガタになる。音響の人に荒れていると諭されてから恥じ入って集中

できるようになった。反省。影山莉菜は全然のらず、つけっぱなし。



11/2〜11/6(日)

 小説まったく停滞。照明の仕事も4日あたりに1度充実した程度。調子が悪い。イ

ライラする。平常心。



冴木しおり…どうもノレない。

綾瀬なつみ…目のギョロっとした人。

マジック緑…中山みどりという名前だったはずだが中山美咲や中山みゆきと混同する

      ので変更したのだろう。見ていて辛くなるぐらい暗いし、手品もなんだ

      か見せ方がヘタクソだ。身体も貧弱でとにかく表情が暗い。29歳ぐら

      いだし、なんか諦めきって生きている感じ。

渚真琴………1〜5日まで沢口友美の穴埋めだったらしい。踊りの出来は素晴らしく

      良く、照明も非常に良く決まった。

沢口友美……6日から。ライフルを片手に踊っている。あらいぐまを飼っている。自

      衛隊風の男とつきあっているらしい。

白石奈央……大きいバスタブを使っての演技。唯一のセット。シャワーやアワの小道

      具を作るこだわりには関心する。マニアックというかオタク的というか

      アニメチックな娘だ。創作意欲のある女は好きだ。

神崎ちはる…踊りが一番うまい。表情も素晴らしくよい。ややふくよかな身体。タマ

      ネギ風のショートヘア。

千堂あやか…表情はよい。華もある。

影山莉菜……頑張っていると思う。でも俺はもうダメだ。この人の照明はできない。

      この人には白石のような意欲が感じられない。なぜだ!



11/7(月)〜9(水)

 小説も書かねばならぬのに丸一日睡眠していた。本当に眠くて眠くてしかたなかっ

た。

 朝、夢の中で腹立たしい奴に殴りかかった。目覚めたら本棚を殴っていた。拳が擦

りむけてしまった。最近疲れているのか、寝ると一時的に現在の自分を完全に忘れて

しまう。脳の海馬の働きが鈍っているのかもしれぬ。職場で一瞬寝ると、今どの踊り

子が踊っているのかも分からなくなる。



 影山が「監督ぅ、なんで私にいじわるするの」と言った。「いじわるしているのは

そっちだろ」とこたえる。俺はすねてるのか。



11/10

 楽日。電球交換中に通電され感電する。岩井氏と照明中に口論する。もううんざり

だ。



11/11

 中山みゆきが親戚の不幸という事で休み。替わりに香月いく代が来る。若くは無い。

2年間、道頓堀劇場で専属をしていた人らしい。香番はガタガタでコントも長かった

が、俺の照明は初日にもかかわらず最高だった。平常心を保とうと努力し照明のみに

集中できたことがよかったと思う。



秋野くるみ  以前やった出し物。

五木レナ   ずいぶんたくさんの着物を着込んで踊ってる。和服。

竹村佑佳   年配の人。曲がハイテンポで、今回はオープンでも煽っている。

       一番気合を入れている。亭主は有名なポルノ男優で子供が2人いると

       支配人が言っていた。

冴木しおり  以前やった出し物。

清水まみ   座敷わらしみたいなオカッパ頭で和服で童謡みたいなのをやっている。

       この人意欲的である。

中山みゆき  2日目から来た。母親が病気らしい。(穴埋め 香月いく代)

名鳥優    エマニエル夫人。照明は簡単。



11/12

 名鳥優に例の冷たいまなざしで「岩井くんの照明を見て勉強して」と言われプライ

ドを傷つけられた。この人ホントに照明がわかっているのだろうか?畜生め。岩井は

照明だけに集中してやっているんだからセンスがよくてあたりまえじゃい。こっちは

早朝から深夜から働きっぱなしで、ましてやまだ二日目で照明の統一なんかできるか

い!だいたい俺の照明のほうが客観的にはエエと信じてやっとんじゃい。と思いなが

らも、休憩をつぶして岩井氏の照明をみる。ついでにやり方も聞いておく。残念なが

らやはり岩井氏のほうがセンスはよかった。クソ!名鳥は舞台から照明がわかるの  

か?



11/13

 チーフのうっかりでしなくていい朝当番をやった。得をした片山氏の仕事はいいか

げんなもので人が監視していないと掃除なども適当なものだ。小人にはうんざりする。





照明チーフの片山さん

この日記を読み返すと、片山氏に関してはムチャクチャひどいことをばかり書いてい

るが、悪い人ではなかった。むしろひじょうにまともな人だった。照明も土日のお馬

ちゃんの日以外はすこぶるまじめにやっていた。ただこの人はぼくの仕事のやり方に

制限をあたえる立場の人だったので、怒りの矛先が向いていたのだ。





11/14

 人間失格読み返す。考えてみれば漫画家が主人公なのだ。つげ義春みたいなものか。

文章も骨太だ。



11/15

 オサダゼミナール(2回目)の練習が夜にあり。



11/16

 2回目の休憩にコントの剣持とまんだらけに行く。大変楽しかった。3階のマニア

コーナーにも行き、プラモデルなども見た。アオレンジャーの実物20万円などがあ

った。



11/17

 なにもできない。仕事は朝当番で10時出社。終了後ITO6基を磨く為に12時

までかかった。14時間労働。疲れている。小説のアイデアも出ないので虚しい。



11/18(金)

 休み。区役所に行き。履歴書を出す。うまくいけば2月から仕事できる。

【買った本】向田邦子テレビドラマ全仕事

      森川哲郎 日本死刑史



11/19(土)

 仕事は普通。照明2回。裏一回。夜、玉野氏(演出家……というより舞踏家)の練

習がある。またしても予定の時間より30分遅れてくる。終電間に合わず結局タクシー

で帰る。無神経な男なり。アングラ系の踊り。女二人と男二人(玉野氏含む)、(そ

れに出演しないヘアデザイナー等女性二人)なんかパンツを履いて踊っていたが本番

では脱ぐのだろうか。なんか脱がないような気もする。露出度も少なくストリップで

は無い感じ。照明は退屈しないが客は満足しないかもしれない。テーマや演出につい

てはノーコメント。舞踏表現に興味なし。ただ感情表現は一目置ける。

 残って疲れても、俺の給料が上がるわけではない。時間の浪費でしかない。徒労。



11/20(日)

 朝テレビ撮影入り。ドタバタする。TVクルーに空調は消すかと聞いたら「音声さ

んでないとわからない」と答えたりして馬鹿だなと思った。

 けらえいこの漫画買う。読売の日曜版に連載している人だ。才能がある。面白い。

 非常に疲れている。寝ていないし小説は順調でないし。

 夜2時過ぎまで、玉野氏の舞踏の練習。とにかく休みたい。疲れている。



11/21(月)

 初日。疲労気味。張り切らず適当にやる。照明も平常心で。玉野氏の舞踏もまあソ

コソコうまくいく。演目は「狐の嫁入り」メインの女性はエドワルダ?花子(わけわ

からん)とかいう名前で本名らしいが、それでフィナーレもやるので笑ってしまう。

アラーキー好みの女という感じ。ダンサーでも踊り子でもないので体型は普通っぽす

ぎるぐらいポッチャリであるが、一応全裸となって踊っている。開脚とかはない。完

全なアングラ系の踊りで玉野氏は昭和43年ごろから踊っているらしい。他に狐役の

白長髪のおっさんとショートヘアの女がいる。

 4回目は上の幽霊部屋でぐっすり寝る。

 文書保存箱(550円もするダンボール)5個と荷札を買う。早朝まで本の整理。

 水沢ルイは場内が暑いからといってラストでいい加減な帰り方をした。人が懸命に

照明しているのにああいう態度は腹が立つ。以前にも同じ事があった。こやつ、俺が

照明にのってようがのってまいが関係ないみたい。舞台の上の踊り子の体感温度なん

かこっちはわからん。





幽霊部屋

道劇の2階にあり、舞台セットの物置になっていた。ここで寝ているのはぼくだけだ

った。





11/23(水)

 仕事は舞踏の照明が面白いのみ。家に帰ると本の整理に追われて創作に専念してい

ない。バラバラになっていた本をまとめて紐で梱包して荷札をつける作業。押し入れ

の不要物を廃棄する作業も必要だが時間がない。時間のほとんどを劇場に奪われてい

る。



11/24(木)

11/25(金)

 給料16万円。冬に備えホット座布団3000円で買う。文書整理箱9個購入。明け方

までかかって本の整理。会社では年賀状のラフを描いたりしたがやはり遅々として進

まず。やることが多すぎる。照明はアングラ舞踏の「キツネの嫁入」以外面白くない。

舞踏の人たちには毎日のように見学者が訪れるがこちらをちょっと軽視した態度が見

えて不愉快な人が多い。しょせんストリップ従業員、芸術を鑑賞にきなすったお客様

とは格が違うというわけ。



11/26(土)27(日)

 休憩中、コントの三浦君について主婦やプロが行く市場にゆく。穴蔵のような地下

に下りてゆくと人が蠢いていた。野菜、魚、肉などがかなり安い値で売られていた。

12000 円のマッカランが5000円で売ってたので買う。剣持にちょっと飲ませたらむせ

びながら旨いと言っていた。



11/28(月)

 休日。本の整理。布団などを処分し本を収納するスペースにする。これでやっと書

物の整理が完了した。狭いので効率良く整理するのに時間がかかりすぎる。ゆとりあ

る空間がほしい。これ以上本が増えると、どうにもならなくなるであろう。



11/29(火)

 踊り子を愛せない俺は照明を続けるべきではない。踊り子に幻滅した5ヵ月目あた

りに辞めていればよかった。照明は技術ではない。真剣さ、集中力、そして愛だ。愛

情がなければ絶対にいい照明はできない。もう俺には満足いく照明ができない。やれ

ばやるほど悪くなってゆく。初日はいいが楽日に近づくほど悪くなってゆくというパ

ターンも多くなってきた。普通はだんだん巧くなるものなのに。入社5ヵ月目。影山

莉菜に「照明のセンスがない」と言われた。ショックだった。あの時まで俺は影山の

伝説を作りたいという考えを持っていた。影山とすれ違うようになり、俺は踊り子全

てが嫌になった。影山の舞台に対するやる気の無さも耐えられなくなった。今、俺自

身が以前とは比べ物にならぬぐらい照明にやる気を無くしている。影山莉菜ほど憎ん

で、そして愛した踊り子いない。

 嗚呼、俺はビックになりたい。



11/30(水)

日向レイ  サーフボードを持ってサーファ。あんがいおとなしくていい子である。

花岡舞

渚真琴

水沢ルイ  元番長。

大信田ルイ 真剣にやっている。向上心のある踊り子だが…。益の無い人には関心が

      ないようだ。

舞踏(エドワルダ・華子&玉野氏他) 玉野氏はアラーキ的な人。華子は美人ではな

      いが性格は良さそう。銀長髪の男の人は頭が低くて性格のいい人。みん

      な気のいい人達だ。

星ひかる  逆転ストリップ。

 楽日。最後のステージで客が星ひかるの膣に指を入れる事件があった。星ひかるは

「まんこ触るなバカ野郎!」と怒鳴るし、常連でタンバリンをニコニコ叩いている渡

辺氏(会計士)は目を血走らせて怒っているしで、コント連中は大笑いだった。夜、

星のスチール取材。タクシー帰宅。



12/1(木)

 初日。特別興行。大変である。しかし客の入りは少なく大入も出ない。



12/2(金) 仕事しんどい。

五木レナ  おたがい慣れて、あんがいいい人かもしれないとお互い感じている。

五十嵐レミ 元スケバン的な人。ロック風の曲の人なのだが今回はおとなしめ。

舞踏    2週目。照明は面白い。

清水まみ  題材はジプシーローズらしい。

長田ゼミナール  写真ビデオ撮影OK。ただしストロボ不可。長田先生は今回明る

      い。女は美形でハスキーボイスの葵ルナ(?)

渚真琴   スパンコールのテカテカしたので踊ってる。

名鳥優   照明は非常に難しいが3日目でようやく掴めた。羽根飾りをつけて影山

      風の演目。



12/3(土) スモークマシン前の換気扇朝から壊れる。休みがないから大変だ。





スモークマシン

スモークを出さないと光の線がきれいにでない。はじめのころは出しっぱなしにして

舞台が見えなくなったこともあった。スモークマシンの前の床は非常にすべりやすく、

踊り子がひっくりこけやすかった。裏方は舞台セッティング中に床をふいた。





12/4(日)

 フィナーレの時に耳元で男のうめき声のようなのが突然聞こえた。これで2回目で

ある。照明室で昔、住み込んでいたおじいさんが死んだという話もあり不気味だが、

おそらく大五郎の声がハウリングを起こし、それが照明室の扉の小窓を通って共鳴す

る結果ではないかと思う。あいつは化け物か。



12/5(月)

 素人お立ち台ギャルでは5人の女がモデルクラブからやってくるが、その中の一人

はファミーで一緒に仕事をした娘だった。本番もやっていた娘だ。機材を運んだりし

てくれた娘だ。モデルクラブの男もファミーで会ったことがある男だった。たしかモ

デル出演料45万円をモデル遅刻で40万円にねぎったときの奴だ。





素人お立ち台

手動でフェーダーを上げ下げする道劇の照明装置では非常に疲れる出し物。ただアオ

リまくってるだけのいわゆるディスコ照明。舞台が狭いのでモデルは5名だけだった。

このモデルたちの控え室にはコント部屋が使われた。彼女たちが踊るときには踊り子

も面白がって見にきていた。





12/9(金)

 連日無休で働いているので皆疲れ切っている。イライラするし、つまらないことで

口論も多い。三浦はバセドー氏病ではないかといわれている。支配人はその兆候があ

るという。三浦本人の話では彼の父親がバセドー氏病との事。目がギョロとする他に、

鎖骨が前に迫り出す、喉仏が大きくなる、新陳代謝が激しいなどの兆候がある。

 最近、出社ギリギリまで寝てる。寝る前に食べる。身体に良くないことばかりして、

小説は一向に進まない。仕事ではイライラする。悪循環。時間の無駄。来年は29歳と

いうのに何ら結果を出せない自分。自分の人生が無意味に思える。



12/10(土)

 楽日である。大変だった特別興行もたいして人が入らないうちに終了した。ボーナ

スも無いとの噂もある。なんのために頑張ったのかわからない。

 夜遅くまで名鳥優のセットの蜘蛛の糸制作。剣持がミシンを直して縫うとこだわっ

たが結局使い方がわからず朝全員で手縫いしなければならなかった。変なところで意

地になる男である。

 変電所の火災で電車がストップ。復旧の見込み無しとのことで、駅は人であふれか

えっていた。仕方なく劇場にもどり、剣持とミシンを直そうとしたりする。シャワー

をあび、支配人がおごってくれた焼肉弁当を食べ、ビールを飲んでさて帰ろうとした

が、タクシーはまったくつかまらず諦めて劇場に再びもどり結局泊まることにする。

影山部屋で寝た。

三浦も疲れて早く寝たようでこの日はぐっすり眠れた。



12/11(日)

 今回のメンバー。花岡舞、沢村まい子、モモコ、氷室真由美、星ひかる、清水まみ、

青山リカ、名鳥優。

 デッキの消去ヘッドに問題があり、先週の音楽が消されず残って重なってしまうと

いうトラブルがあった。音響さんは深夜まで残って作業するという大変さだった。真

面目で仕事の丁寧な人である。

 名鳥優の蜘蛛の糸は、蜘蛛の糸というより鳴門巻きのようになってしまった。一人

ポリシーのある人の命令で作ったのではなく、ああすればこうすればと意見を出し合

った結果そうなってしまった。実にみっともないセットだが名鳥優の意見でそうなっ

たそうだから仕方がない。まあ、影山よりやる気があるのはいい。



12/12(月)13(火)

 片山氏はITOのゼラを使いにくい色に変えたり、裏の仕事をまったく覚えていな

いで電飾を閉め忘れたり等ミスが多く、照明をやっていて腹が立ってしかたなかった。

 チーフは星ひかるのセットを作るのはいいのだが、どうみてもゴミにしかみえない

ものを作って、光も当てずにただ出しているだけである。客はあれを何と思ったであ

ろうか。踊り子も嫌だと思っているのにまだこだわって修理して出している。意地な

のか、セットがないとさぼっていると思われるゆえなのか…。無いほうがよっぽどい

い、と思って、俺も文句を言っていたが、チーフは粘り強いというか、粘着気質とい

うか、懲りずにゴソゴソやっているうちに、だんだんサマになって、最後にはそこそ

こ立派なものになった。舞台装置については長く働いているので経験は豊富だ。えら

い。

 チーフはいいが、片山氏にはまったく納得いかない。ただ単に長くやっているとい

うだけでこの男の命令で仕事を続けるわけにはいかない。辞める事にはまったく未練

がない。

 俺が1月20日に退社することはもう皆知っている。新しい人が来ないので結局、

浜名のおっさんが照明の練習を片山の照明中にやりはじめたようだ。そうなると事務

一本だったチーフが裏をやったりもするのだろう。



12/14(水)

 ようやくやって来た休日。宮地氏と中野周辺をブラブラする。仕事の無い事の幸福。

宮地氏は明後日が仕事収めとの事。気楽でうらやましい。

 【買った本】  野田昌宏「新版 スペース・オペラの書き方」



12/15(木)

 ボーナス1ヵ月分、16万円出る。不景気のおり助かる。社長は裏切らなかった。

浪費を避けるため預金してしまうつもり。

 机の上が暗いので電気スタンド買う。ビックカメラに行くがろくな品物が無い上、

店員の態度が良くないのでパス。もう一生いかない。品数の多い東急ハンズで買う。

ここは実際点灯させたりできるのでよい。約8000円なり。実に満足。



12/16(金)

 浪費を避けるため18万円を銀行に貯金。

 片山氏は、昨日の夜に岩井氏が直したバックサスを朝俺を呼んで再び直させ、更に

コント中に直させ、さらにその後も直させた。彼は本当にバカであると結論するしか

ない。





バックサス

本舞台からボン方向を照らすライト。赤4本と青4本がある。踊り子の肌を照らすの

ではなく、あくまで光のラインを見せるもの。ベッドインとかベットの最中とか、ベ

ッドの帰り際とかに使用する。これが一本でもゆがむとみっともない。いつもバック

サスをゆがませる踊り子というのもいた。





12/17(土)

 野田昌宏「新版 スペース・オペラの書き方」を読んでいる。面白く役立つ。SF

といえばハードSFという昨今、娯楽としてのスペースオペラを提唱する姿勢は俺と

同じだ。理論づくめの難解なSFは俺には関係ない。朝日ネットのフィクション練磨

境で筒井康隆の取り巻き連中に攻撃されてからはそんな難解なもんにはうんざりして

いる。この本はまったく今の俺にふさわしい本だ。しかし小説は進んでいない。どう

も原稿に向かうと眠くなるのだ。



12/18(日)

 野田昌宏「新版 スペース・オペラの書き方」職場にて一気に読む。創作の地獄の

様な苦しみをこの人も経験している、いや、ほとんどの作家が経験しているというこ

とが書かれていて安心した。とてつもなく参考になった。

 星ひかるに暗転の事で文句を言われた。ほんとうに嫌な顔で言われたので非常に腹

が立った。話をするのも、顔を見るのも、同じ空気を吸っている事すら嫌な気持ちに

なった。もうこの人と話すことは生涯無いだろう。

 舞台上を掃除中、おどけて「モップで拭かせてくれ」と上がってきた酔っぱらいが

いたので激しく怒鳴りつけてやった。俺ももうヤケクソである。

 道頓堀劇場は来年中には営業を取り止めるとの事。コントの連中からは聞いていた

が、まさか本当の事だったとは……。ビル自体が差し押さえられている状態なのは知

っていたが、その引き渡しの時期がもうすぐ来るというわけだ。それを聞いて俺が辞

めるという事も、一足早く去る程度のことに思えて気楽になった。

 浜名のおっさんもそろそろ照明をやりはじめた。



 12/19(月)

 星ひかるが舞台で泣いた。俺の照明の時に泣いたのは影山莉菜に次いで二人目だ。

泣いた理由は、出だしでコントの連中が引っ込み損ねて、幕が開いたり閉じたりした。

あるいは俺の怪我していた指が痛くて照明がイマイチだった。あるいは俺が途中でチ

ーフにインターして照明を代わってもらいトイレに行った……等々が原因かもしれな

い。ベット終わりから泣きはじめ、オープンではずっと泣いていた。女の涙は信じて

いない。もう星は見たくない。星は後でコントの連中に辛くあたっていた。剣持や池

田は黙って耐えていた。偉い。星はコントの連中に辛く当たったが、本当は俺に腹を

立てている。何やら自分が女王であるように錯覚しているようだ。好かれる事に慣れ

すぎて嫌われる事に慣れていないのだろう。

 池田がビデオカメラを買った。9万円20回ローン。充電方法、使い方等教える。明

日からコントを撮るそうだ。俺が一番最初に映った。



12/20(火)

 楽日。片山氏が照明のプランナーをしているので、色一つ決めるのにモタモタして

いて結局タクシーで帰らねばならなかった。それで照明がよくなるならいいが、初日

を見ないと色なんてわかるもんじゃない。片山氏はただ小坂さんに怒られるのが恐い

だけだ。小学生じゃあるまいし、自分のやりたい色でやればいいではないか。



12/21(水)

 初日。支配人に凄い事を聞いた。踊り子の××××には九州に子供が2人いて2月

には辞める予定だという事だ。明るくて好きな踊り子で×××××の男と付き合って

いることは知っていたが、子供までいたとは。俺もAVでうんざりするほど女のハダ

カをみたが……。女ってわからない。

 影山莉菜、星ひかる等、とにかく話さない、顔を合わさない。女ほど煩わしいもの

はない。

〔メンバー〕

星ひかる

小谷あや……来週は沖縄にゆくとの事。先週は北海道だとか。不美人だが気のいい人。

沢口友美……演目に懲りすぎてうまくいかないようだ。頑張る姿勢がいい。

井上美加……新人、へたくそ。

渚真琴

挂木マコ……大阪方面のベテランのようだ。踊りが凄く巧い。ファンもたくさん応援

      に来ている。久々に素晴らしい踊り子。

黒木沙羅……印象なし。

影山莉菜……マライヤキャリーのクリスマスソング。クリスマス用のツリーのような

      オープン着。



12/22(木)

 1回目照明はさんざん。影山莉菜などボロボロ。4回目は客がたくさん入ったので

テンションが上がり、92点ぐらいの照明ができた。4回目は岩井氏の時間だが、彼

の都合で香番を変更した。

 

12/23(金)

 今日も照明は調子が良かったのだが…。影山莉菜以外は。おもいきって影山に聞い

てみた。影山は「監督の照明、べつになにも文句なんかないよ」と言っているが、俺

には踊っている時の態度がとてもそう思えないのである。表情が嫌々やっている感じ

である。盛り上がりの部分で「クーラをつけて」とわめいたりするし。うんざりであ

る。せっかく挂木マコの照明で久々に燃えていたのに…。そのあと影山と話し合う事

になっていたが、ムシャクシャするので2階の幽霊部屋に行って不貞腐れて寝る。も

う顔も合わせたくない。一番照明をやりたくない踊り子だ。ここ数カ月満足な照明が

できない。言いたいことは山ほどあるが本音で何も話せない人だ。俺の言葉を聞け!

二人は憎しみあうために出会ったのか?



12/24(土)

 世間一般はクリスマス……らしい。職場はホテル街にあるのでカップルだらけであ

る。

 朝、池田が起き上がれないほど身体の力が抜けてしまう。枕も持ち上げられないし、

靴下も自分ではけないという。医者に行ったらカリウム不足との事。点滴をうけて戻

ってきた。食事の不摂生が原因だが、ババナを食えば治るらしい。

 影山とは顔を合わさないようにしている。舞台は2度の照明とも影山は表面的には

明るく楽しそうに踊っていた。ブス〜〜と踊ってはいなかった。それだけでいいと思

う。好きにならずにはいられない女だが、好きになってもしかたのない女だから、天

の邪鬼な態度を取らざるを得ないのだ。俺は。



12/25(日)

 影山莉菜もいろいろ気づかってくれる。俺が辞めることは知っているようだ。



12/27(火)

 激しい悪寒のままとにかく出社。給料16万もらう。朝当番の仕事を終えて、舞台

の幕の中で寝ていたが(暖房をいれるとそこはかなり温かいのだ)開演30分前ぐら

いになって支配人が帰って休むように行ってくれる。大変助かった。この日は大掃除

があり心苦しかったのだが、ともかく言葉に甘えて帰る。途中銀行に12万入金し残

高30万円。布団屋にて5000円の毛布を購入。嫌になる程寝たが、また寝なければな

らない。とにかく寝るしか治す方法はない。風邪薬、バナナ、栄養剤などだけしか口

に入らず、便も出ないし、尿も出ない。汗だけが出た。ゾクゾクするほど寒いかと思

えば、熱くて耐えられなかったりする。20時間は寝たと思うが、30分ごとに起き

ては身体の位置を変えたり、セーターを着たり脱いだりして温度調節しなければなら

なかった。頭の中でいろいろな人が大声でがなりたてているような夢とも幻想ともい

えぬ悪夢のような混沌とした思考が支配した。目覚めて身体を起こすと、襲いかかっ

てくる咳。呼吸困難になる。うがいしても痰が切れない。起きているときは影山莉菜

のことばかりが頭をよぎる。悪寒は深夜まであったが、朝方になってようやく回復し、

汗も引いてきた。



12/28(水)

 咳止めブロン液を飲みながら1、3回目照明。沢口友美専用の小盤テープが落っこ

ちて中断するという事故もあったがボーとした気分の中でなんとか終了する。2回目

の休憩では皆が気づかって眠らせてくれた。

 影山も風邪を気づかってくれたりしたが、俺はそんな言葉より舞台でもっと笑顔を

見せてくれるほうが嬉しく思う。素直じゃないだろうか。本当は物凄くうれしかった。

 従業員のみの慰安会が終了後にあった。食欲は全くないが、ビール等の水分は有り

難かった。身体が脱水症状をおこしているのだ。刺し身は食べられなかったが茶碗蒸

しなどは食べられた。途中で帰らせてもらった。

 山田から手紙あり。図書券5000分入っていて嬉しかった。

12/29(木)



12/30(金)

 楽日。やはり桂木マコだけは最高に照明のノリが良かった。この踊り子は最高だ。

ムチャクチャ踊りがうまいのでやりがいがある。が、その照明の時に渚真琴が入って

きて照明をベタホメしていった。渚の照明に関してはかなり気をつかってやっている

が、あいつがふてくされていたら、俺も卓の上に足を放り出して投げやりになったり

する。最近はあいつもやる気を出してやっているみたいだ。



12/31(土)

 初日。仕事は3回目まで。セットが多い上に、支配人が決めたアカリを小坂氏がき

てあれこれ変え、毎回が変更の連続で最大限に疲れた。ボロボロ。裏の仕事も極限ま

で神経をつかった。



 =========== 1995年(平成7年)============



1/1(日)

 元旦。最悪の正月だった。最近は朝疲れてしまって起きられなくなった。精神状態

もガタガタで常にイライラしている。カルシューム不足だろうか。毎日のように遅刻

だ。風邪で咳が止まらない。仕事は過酷だし、今まで経験したなかで最悪の正月だ。

 照明はうまくいかない。家でも何もできない。大事な事がなにもできない日々。

 他のスタッフは皆酒を飲んで騒ぐ余裕があるのに、俺は飯も食う時間がないほど忙

しかった。理不尽。納得がいかない。

 正月は仕事が楽で、食べ物も豪華なものが沢山あると聞いていたがデタラメだった。

シチューだとか、肉ジャガだとかの鍋も用意されたが、俺が照明室から帰ってみると、

みんなコントの公重のおばはんなどに食われている始末。チーフなどは酒を飲んでい

い気分だったようだが、酷い話だ。裏の仕事と照明の仕事を交互にやっている俺には、

コントの連中のような自由な時間がないのだ。



1/2(月)

 昨日は3回目で終了だったが、今日は平常とうり4回目まである。仕事はやはり過

酷だった。精神にゆとりがまったく無い。

 事務所ではコントの公重などが関係もないのに酒を飲んでたむろしており、仕事を

している俺が椅子に座ることもできないありさまで腹が立った。芸人が正月に正月気

分とは片腹痛い。公重はコメディアンとしてはぜんぜんつまらんし、その芸が人を不

愉快にするだけのおばはんだ。コメディアンを志してはならぬ人間である。本人は自

分の芸風がたけしの毒や横山やすしの毒のように思っているのかもしらんが、ただ不

愉快なおばさんというだけだ。ああいうのを甘やかしている社長の神経を疑う。切っ

てやるのも思いやりではないだろうか。

 20日までこの仕事をやるつもりだったが、あまりにも辛いので10日で辞めさせ

てもらいたいとチーフに申し出た。(チーフでは話にならないが……)

 もうこの仕事を続ける気力がない。疲れた。早く辞めてゆっくり休みたい。ゆっく

り部屋を掃除したりして新しい生活に備えたい。小説を書きたい。

 時間が足りない状態がずっと続いている。仕事に追いまくられて自分のやりたいこ

とがなにひとつできない日々…。

 今日も帰り際、山手線が人身事故。なんとか地下鉄で終電ギリギリに帰れた。



1/3(火)

 セットや進行が完全に把握できるようになったので、裏も照明もゆとりを持ってで

きるようになった。一番照明が難しい清水まみの「ジプシーローズ」(ITO6本と

バックサス2本、64生、仕込みの緑の8発ライトを同時にアオルというもの。よう

やくできるようになった。使っている曲のセンスがみな異様にいいのは、誰か知らん

が演出している奴がいるのだろう。こういう演出を自分ひとりでやれる踊り子がいた

ら、それは影山を超える踊り子になるだろう。俺も影山の演出やりたかったな……。

 影山は獅子舞。これも本人が頑張っているのでいい。



1/4(水)

 浜名のジジイが逃げた。昨日、酒を飲んでチーフに文句を言っていたりしたが、コ

ントの連中の話によるとさんざん文句を言った後に荷物をまとめていったそうだ。今

までの不満が遂に爆発した形だが、あまりにもひどい話だ。仕事が一番大変な時だし、

俺が辞めるのが確定して来週からは浜名が照明をする(それはとても無理に思えた  

が)予定であったのだから。「この業界というのはね、上から言われたことだけやっ

てればいいんですよ」などと悟りきったような事をほざいていたジジイが口汚く劇場

の悪口を言って真先に逃げだしているのだから失笑だ。たいした仕事もしていなかっ

たくせに。本当に口先だけの詐欺師だった。論旨は無茶苦茶で、考えるよりも先に言

葉にするような男で、いい歳をして芸人に憧れていた昔を引きずって、全然面白くな

い駄洒落を1日に何十回も言っていた。借金を踏み倒すばかりの人生で、「借りた金

ってのは返さなくていいんですよ、こんな俺に金を貸す奴が悪いんだ」とも言ってい

た。競馬で一発当てる事だけが夢で、才能も無いのに会社を作って4000万円の借

金を作って踏み倒す。それでもまだ「一発もうけましょうよ」などと片山氏に言って

いた。最低の人間だった。踊り子にだけ調子のいい最低人間だった。影山や他の踊り

子が俺をまったく信頼しないであの糞爺を信頼していたのが悔しくてしかたがない。

 スポーツ新聞にも道頓堀劇場の年内閉鎖の記事が載った。

 仕事は大変だった。香番が変わり照明は1回、裏2回になった。結局、片山氏と俺

が2回づつ裏をやり、照明は1回づつ。岩井氏が2回照明をやるというパターンだ。

(岩井氏はアルバイトで照明のみ)。非常に疲れた。

 浜名は逃げたが仕事は何も変わらない。支配人も普段と変わらぬようすだ。正月に

人が消えるのは当たり前といったようすだ。

 以前逃げた、岡という人がまた復活するという噂があった。この人は歴代のスタッ

フの中でも一番よく噂にのぼる人で、とにかく照明は最悪で裏の仕事もできないろく

でもない人であったらしい。それがまた来るというので彼を知る専属の踊り子は相当

嫌がっているようだ。



1/6(金)

 仕事はきつい。音楽を覚えてしまえば無駄な動きは無くなり従業員部屋で寝ころが

る余裕もあるが、今回の場合は長い休みがなく、絶えず注意をしていなければならぬ

ので大変である。便所にゆくのも至難の業だ。

 帰りに新宿駅でホームの下に文庫本を落とした。アーサー君の「2001年宇宙の

旅」だ。駅員に言ったらすぐ道具を出して拾ってくれた。シオリまで拾ってくれたの

でありがたかった。JRえらい。



1/7(土)

 当番ではなかったが、きのう遅刻したのでチーフの代わりに朝当番をやった。もう

これで朝当番をやるとこもないから。

 俺が書いたネタをコントの連中が初めてやった。本来8分のものを3分でやったの

だがまったくうけないと思っていたらあんがい反応があったようだ。核廃棄物を食っ

て剣持と池田がキチガイになるところが一番重要なのだが、剣持は舞台の上ではどう

しても演技に身が入らないようで恥ずかしがってしまってダメだった。その部分はヨ

ダレを垂れ流して白目を剥いて、身体をねじれまくらなければならないのだ。ラスト

は最後に三浦がコンドームを出すというオチにしてあって工夫のあとが見られた。

 影山については何もない。彼女の顔を見ているだけで疲れてしまう。俺にとって影

山という存在は眩し過ぎる。彼女にとっての俺の存在は嫌なものに違いない。一度で

もいいから照明で彼女に愛を注ぎたかった。影山莉菜の伝説に残るようなステージを

作りたかった。そして彼女に踊りで俺の愛にこたえてほしかった。もう俺は影山莉菜

を愛せない。だから俺は照明をやめるのだ。彼女はその事に一生気づかないだろう。



1/8(日)

 戸塚からの年賀状には今年まんがデビューがダメだったらすっぱり諦めると書いて

あった。今年は会ってみようと思う。つまらないこだわりはもう無いから。

 もう一度夢を追いかけたい。腐りきった今までの自分を捨てたい。漫画家を諦めた

あの日から、俺の精神は本当に腐ってしまっていた。俺にとって漫画を描くという目

標が生きるための一つの重要な要素であることを思い知った。



1/9(月)



   【メンバー】

白石奈央  専属 大和撫子七変化、トックリを持って客に酒を振る舞う。今回はと

         ても可愛かった。踊りも変化に富んでいて面白い。構成が巧い。

片瀬舞      ピーターパンのような作品。音楽が映画的で照明が難しい。この

         人は衣装が多いので裏はいつも大変だった。

渚真琴   専属 妖しい感じが多いが、今回はジャズは使わず日本語の曲で構成さ

         れていた。サザンオールスターズ等。

星ひかる  専属 逆転ストリップのスチュワーデスバージョン。

冴木しおり 専属 本人に合っているのんびりした曲。中国風?今回は今までで一番

         いいできだろう。

清水まみ     ジプシーローズ。照明は最高に難易度が高い。ラストはITOで

         アオる。座って照明していられない。立ってやるしかない。

花岡舞   専属 尼さん。これも構成はしっかりしている。清水まみの激しいもの

         の後なので余計に静寂さが際立つ。

影山莉菜  専属 冒頭の獅子舞はいいが、どうしても後半のベットインからの悲し

         げな表情が俺にはどうしても許せないのだった。一度でいいから

         この人を本当に好きになりたかった。ついに好きになれなかった。

         この人には出会うべきではなかった。これほど複雑な感情を抱く

         女性は他にいない。薔薇のような女だ。

------------------------------メモ------------------------------------

〔裏〕+64パープル,本舞台パープル,センター青73

白石 +FQヌキ、ササ筒

   open撤去     (FQゼラ入れ↓)

片瀬  電飾      (渚衣装下ろす)

    ベット電飾閉め

渚

   open ミニブル(生)

星

コント  +撤去、ガレキ、FQ(黄)

冴木 +ITO全B3

   open撤去、8発、ワッカ 、64ヌキ

清水 open+撤去、障子、畳、ミニブル(赤)

     +64パープル、センター77青

花岡 ベットイン 幕閉め撤去(障子、畳、衣装)

   open ミニブル(生)、ITO全赤

影山   カミナリで幕開け

     蜘蛛の糸受け取り

   open電飾

〔照明〕

白石  FQ(生)C  3-5 (7)青

        (8)パープル

片瀬  電飾

渚

星   ミニブル生 A  キリカエトップ

コント 

冴木  FQ(黄)C  3-5   (7)生 (8)生

    1曲目おわり暗転

清水  キリカエトップ   花道

    64(生) 4発〔A〕 前半アオリ

    4発〔A〕 64(生) 後半アオリ

花岡  ミニブル赤〔A〕花道   (7) 77青

影山  ミニブル生〔A〕花道   ●クーラー 音

    頭ストロボ 薄明かり  (7)青 (8)青

------------------------------------------------------------------

 淡々と仕事するのみ。いよいよ明日退社だが感慨はなし。まだ明日の仕事があると

思うと疲れる。最後に満足のいく照明ができるだろうか。俺がいなくなっても劇場は

なにも変わらないだろう。劇場の仕事はその終わりの日まで休むことなく続くのだ。

結局、矢野社長とはこれまでに一言も話さなかった。立場的にそうしていたのかもし

れん。お互い絶対に相容れない性格だから、もしぶつかったら大変なことになる。矢

野社長はそれが感覚的にわかっていたのかもしれん。いろんな社長の中で唯一尊敬で

きるファミーの本田社長は特殊な例だったのかもしれん。



1/10(火)

 道頓堀劇場退社。

 終わった。

 1回目裏。2回目照明。3回目裏。4回目は無かった。

 4回目は、本来休憩の時間で、その後ゼラ変え、明日のセットの準備等があり深夜

まで作業があるのだが、支配人の配慮で3回目の作業で終了となった。

 楽日の手当て6000円と、10日分の給料 60000円もらう。

 感慨深い感情は押さえた。コントの連中は別れを惜しんでくれた。最後の照明はミ

スは無かったがパッとしなかった。結局、影山を愛せなかった。裏の仕事は、ただ淡

々と働いた。

 3回目のフィナーレが終わったら、なんだか突然居場所が無くなった感じだった。

持って帰るものはサンダルだけだった。スタッフには軽く挨拶して帰った。

 不思議な事に一番さわやかな笑顔で別れたのは影山莉菜だった。彼女は「次に何を

するの」と聞いて、区役所と答えると、「なんでもできるんだね」と言った。また  

「客として見に来て」とも言っていたが、そんな事はできるわけがない。「道頓堀劇

場で最後のいいスタッフだった」とも言っていた。彼女のこの笑顔がなんで舞台の上

で出ないのかと思うほど、それは愛情にあふれた素晴らしい表情だった。悲しい表情

もした。彼女の表情が短い時間になんども変化した。俺はこれほど美しく輝いている

女を他に見たことがない。彼女は美しすぎる。可愛すぎて憎らしく、お互いいがみ合

っていたが、やっぱり俺は影山莉菜が好きだった。本当は好きだった。ただどうして

も素直にはなれなかった。それは彼女が俺を一人の男として愛してくれない事を知っ

ていたからだ。だから俺は、彼女を憎む事で心のバランスを保っていたのだ。たとえ

彼女を自分のものにしても、絶対に扱いきれないし、絶対に幸せになれない。二人は

違いすぎるのだ。俺は人間として彼女に完全に負けている。自分に自信を取り戻せた

らもう一度会いたい。

 コントの池田や三浦とはいつかまた会えそうな気がする。気の合う連中だった。

 照明室の岩井氏にも挨拶したが、困ったような表情をしていた。

 モギリではたまたま外にいたオオスミさんだけに挨拶しておいた。気のいいおばさ

ん達だった。

 池田が劇場の外まで見送ってくれた。

 俺はこの時まで、道弦坂をおりるときは自由な気分で歩けると思っていた。上を向

いてやっと開放されたぞ!と喜びながら、小説を書くぞ!と意気揚々と帰れると思っ

ていた。

 しかし、その時の俺は道弦坂をおりながら悲しい気分だった。やっと開放されたの

に、とても悲しい気持ちだったのだ。こんな気持ちになるとは思ってもみなかった。

 悲しいのは、会わずに別れるつもりでいた影山莉菜のまなざしを見てしまったから。

影山を憎んだままなら、楽しい気分で帰れたかもしれない。影山の笑顔は優しく、コ

ントの連中は悲しい表情で残念そうに見送ってくれた。いい奴らだった。一つの職場

を辞めてこんな気持ちになったことは今まで一度もなかった。

 もうあの劇場にゆく事はないだろう。1年しないうちにあの劇場もなくなってしま

う。

 コントの連中は成功するだろうか。成功してほしい。

 影山莉菜は幸せになれるだろうか。幸せになってほしい。







最後に、3ヵ月後、影山莉菜にあって話したときの日記を載せておく。
1995/4/5(水)    影山莉菜と会って話した。  渋谷に到着して池田にTEL。俺は109の前でこっそり待ち合わせしたかったが、 池田に「影山莉菜は、かりにも道劇の姫なのだから」とたしなめられ、近所の喫茶店 「フレンチクオーター」にしろとのこと。劇場のほとんど真ん前である。指定された 時間までハチ公前で20分潰し、さらにフレンチクオーターの中で15分潰した。長 かった。いい年をして胸がキュンキュンして心臓がはち切れそうだった。たとえ影山 と会っても99%ダメなのはわかっていたが、言いたいことや聞きたいことは山ほど あった。  影山がきた。が、俺は唖然とした。影山と一緒にアホの池田がくっついてきたのだ。 俺は影山にそこまで信頼されていなかったのかとショックであった。  しかし、池田を連れてきた影山の判断は正しかったのだろう。実際、劇場を辞めて からの俺は、道劇の従業員であるという足かせをとかれてから、影山への想いは高ま る一方。そうとうに気持ちが舞い上がっていたのだ。  影山は相変わらずキラキラしていた。こんないい女、世界中探したっていやしない。  なんで池田がいっしょなのかと聞くと「だって監督とはなにも話すことがないも ん」と言われ、またまたショック。たしかに俺は彼女とはまったく共通点のない男で ある。聴く音楽も、趣味も、仕事の方向性も、芸術に関する関心も、すべてのベクト ルが異なる人間である。影山には銀座、六本木が似合うが、俺には秋葉原や神田神保 町が似合う。たしかに何も話すことなどあるまい。  しばらくしてから池田は裏の仕事があるというので劇場に帰った。気を利かせたの か。  ふいに影山が「結婚はね」といったのでドキッとした。影山は結婚は考えていない と言った。縛られるような女じゃないのはわかっているが、影山と暮らしてみたいと 男ならだれだって思うだろう。今、つき合っている恋人の話もきいた。40歳ぐらい の奴らしい。べつに100人恋人がいたって驚かないが、自分がその中に介入できな いことの情けなさ。せめて影山と楽しくいろいろ話ができて、影山を楽しませたりで きたらいいだろうと思う。それすら俺には夢のような話だ。  影山は「監督はわたしの一面しかみていない」と言った。でも心の中を見せなかっ たのは影山も同罪だ。影山は毎日裸になってすべてをさらけだしていても、心の中の なにひとつのぞかせてはくれなかった。  俺が恋したのは、俺の心が作り上げたイメージの莉菜であって、いま目の前にいる 美しい人は、まったく別の世界の遠い存在なのだろう。つくづく自分が哀れになるぜ。 まったく。  影山はいろいろ話してくれた。専属の踊り子はみんな12月までに引退するという こと。影山莉菜という存在も12月で死ぬという事。それまではずっと引退興行をす るという事。来週は大阪へ旅に出て、そのあと1週間休暇との事。それから引退した はずの白石奈央が、名前を変えて上野スター劇場に出演しているらしいこと。(その 方が搾取が減って手取り分がアップするそうだ。池田の話では保母さんになるらしい ときいていたのだが)  そして、影山莉菜自身は引退後、舞台のプロデュース業をして今度は搾取する側に なると言ってた。六本木にショーパブを出すらしい。そう話す影山はまるで実業家の ようだった。(そのうち宅急便で俺に何やら本を送ってくれるとともいってた)その ほか影山は、車の事故でケガをしたときに地方(たぶん奈良)のお寺に行って5日間 ほど座禅を組んだときの話や、弟がいてそいつを食べさせているような話をした。  俺は影山がなんでほかの踊り子のように大がかりな企画物をやらないのか。なんで 自分流の踊りだけのステージにこだわるのかきいた。意欲がないのかと。影山の答え は「8年間やってきて、もうさんざんやったもん」であった。思えば俺は道劇に10 ヶ月いただけ。ずっと影山を見続けてきたわけではないのだ。俺は納得するしかなか った。  影山は、名鳥優(なとりゆう)、渡未来(わたりみき)、結城沙也佳(ゆうきさや か)と「四天王」とよばれるライバル関係にあったそうだ。その中でいつも同じ演目 ばかりやっているのに結城沙也佳の人気が絶大であることに、影山は不満を持ってい たという。結局、踊りや演出にいかに工夫を凝らすかではなく、踊り子そのものに華 があるかどうかが重要であると、気づいたらしい。  そんなわけで自分の演出を押しつけようとするプランナーの小坂氏は完全に嫌いだ ということだ。なるほど、社長も支配人も誰も彼もが俺と同じ不満を影山にもってい たけれど、結局みんな影山の強い意思の前に屈伏するしかなかったのだ。  影山は俺に精一杯気をつかっていた。俺はしょせん「困った人」であった。つくづ く自分が情けない。だが俺は、それが夢想だろうと彼女以外の女には、もう永遠に恋 はできないだろう。  影山にコーヒー2杯も奢ってもらう。カッコ悪い。馬鹿じゃなかろうか。  そのあと影山に連れられて事務所に行った。支配人以外はいた。全然変わらぬ時間 の止まった空間。ただ俺の代わりに入った暗い男が増えているだけだった。片山さん の表情も暗かったが、池田の話では片瀬舞と付き合っていてヘマでもしたんだろうと のこと。  場内にはいって影山のステージをみた。くやしいけど岩井氏の照明は最高だった。 影山莉菜を輝かせるのはこの人しかいない。  影山は最高に美しかった。桜をテーマにした踊りだった。いつかはじめてあの人の ステージをみたときの感動がそこにあった。オープンでは今まで見せたことのないよ うな明るい笑顔を見せてくれた。最高に美しかった。今、影山はステージの上で俺だ けを見て、俺だけにほほえみかけていた。そうか、俺はただこの人のほほえみが欲し かっただけなのだ。俺が照明をやっているときにこのほほえみがあったなら、俺は最 高の照明をできただろう。それも今となっては遅すぎる。  影山部屋に行って「すごくよかったけど、なんであの笑顔が俺の照明のときにでな かったのか」とたずねると影山は「きょうはスチールが入ってたから、はりきっただ けだよ」とかわいげのないことを言った。影山莉菜は、したたかに美しい悪の華であ る。  俺は影山が好きなのに、気にさわって憎くて、無視もできず、忘れることもできず、 嫌がらせばかりして、でもそれがあの人に示す唯一の愛情表現で、あの人にふれるこ とすらできず、自分は恋の矢面には立たないで、あの人が優しさを示しても嫌なふり をして逃げしまう。  つくづく俺って素直じゃない。自分に素直に生きなければ一生後悔するなぁ。  影山の表情は、俺にとってギリシャ神話のテナンのようだった。   ピセアダイという若者が   テナンという女の顔を見て   憎まれていると思い込み殺してしまう   そこに神が現れて   彼女の心臓を開いて見せると   彼への愛でいっぱいだった   テナンは愛する時と憎んでいるときの表情が同じだったのだ  スタッフの掃除を最後まで手伝った。  深夜、池田にシャブシャブ奢ってもらった。こいつも金がないだろうに、ありがた し。奴も近いうち辞めるそうで、だれぞコンビを組む相手を探しているらしい。がん ばってほしい。  影山の本当の名前は何というのだろう。  一度でいいから「影山さん」ではなく「莉菜ちゃん」と呼びたかった。 Copyright (C) 1997 じじい猫

後記

 ぼくが日記をつけはじめたのは19才のとき。これはぼくが28才のときの日記である。さいわいこのころはワープロ専用機をつかっており、今回こうしてHTML化することができた。
 なお、用字用語の表記などはめんどうなので統一していない。照明に関するメモは専門的すぎるので割愛した。

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