お茶のいれ方

お茶のおいしい季節になった。 もちろん、 お茶はいつ飲んでもおいしいものだが、 摂氏 30 度を越える日が何日も続くような季節に較べると、 肌寒く感じる季節の方がやはりおいしく感じられる。

さて、 気のせいかも知れないが、 日本ではどうも紅茶は敬遠されているように思われる。 ことに、 人と喫茶店に行った時に、 そう感じる。 コーヒーを頼む人が圧倒的で、 紅茶を頼む人は少ない。 話を聞いてみても、 自宅で紅茶をコーヒーほど飲んでいる人も、 どうも少ないようである。 もっともこれは周囲の人の話から結論したことなので、 実際にはそうでないのかも知れない。

私の場合、 家では紅茶を日本茶以上に飲むが、 喫茶店に入ったような場合、頼むのは圧倒的にコーヒーが多い。 それは、 金を出してまで飲みたいと思うようなお茶を出してくれる店がほとんどないからだ。 大抵は色のついたお湯を出してくる。 これが紅茶が敬遠されている原因なのかも知れない。

実際、ひどいいれ方をする店が多い。 たとえば、 ちょっと気取った店になるとポットにいれて客に出すところも多い。 しかし、 ポットの中で無邪気にティーバッグが泳いでいたりする場合もあるので油断できない。 良くても、 不織布の袋にリーフをいれたものを出して来たりする。 ポットを洗う手間を省くためだろうか? お茶はリーフが開く際に味が出るので、 ポット内のリーフの動きを拘束するようなことをしては、 味が出ない。

中には、ポットの中にリーフがそのまま入っている場合がある。 しかし、 ポットにリーフを入れたままで客に出してくるようでは本物ではない。 味が確定した段階で別のポットに移してサーブするのが本式なはずである。 もっとも、私はそこまでやかましくはないが。

話がずれたが、 専門店ならともかく、 おいしいお茶を飲みたいと思ったら、自分の家で飲むしかない。 そこで、私がおいしいと思うお茶のいれ方を紹介しよう。 もちろん、 何をどう飲むかは個人の勝手であって、 人がとやかく言うことではない。 それに、だいたい、私の飲み方は正式ではなく、 かなり邪道な方だと思う。

道具をそろえる

この手の話は始めるときりがないので、あえて簡単に済ませることにする。

絶対に必要なのが陶器のポット。 ピストンのついたガラス製のシリンダ状の器具を見かけるが、 あんなものではお茶はいれられない。 で、 そのポットだが、 とりあえずこの場は陶器のポットならなんでもいいということにしておく。

必要なのは以上のものだけで、他のものは有り合わせで構わない。

リーフを選ぶ

次に、リーフ、つまり紅茶の葉を用意する。 ティーバッグはいけない。 紅茶や日本茶の系統でティーバッグをおいしいと感じたことは一度もない。

脱線になるが、 カモミールやミント等のハーブティーなら、 ティーバッグでも結構いけるようだ。 とはいっても、 ヨーロッパにいた時も、日本にいる時も、 ティーバッグではないハーブティーを見たことがないので、 これ以上はなんとも言えない。

さて、問題はリーフの選択だが、 これは好みで選べばいい。 しかし、それでは当惑する人も出るかと思うので、 独断に基づいていくつか推薦してみよう。

まず、メーカ。 わざわざ、 高級食材店に行って求めなくても、 近所の大きめのスーパーで缶に入れられて売っているもので構わない。 大手のスーパーで扱われているものなら、 水準は十分にクリアされている。 少なくとも、 そこらの喫茶店やファミリーレストランで出してくる以上のものが出来るのは確実であるといえる。

メーカで迷うのなら、 とりあえず、 トワイニングあたりがいい。 フォートナム・アンド・メーソンが日本では有名だが、 結構癖があるラインナップが多いので、 飲みつけていない人には勧められない。 その他にフォションも著名だが、 フレバリーティーが多いので注意する必要がある。 フレバリーティーは選択が難しいと思う。

最後に、どのリーフにすればいいかを考えてみよう。

慣れない人に、ということなら、セイロン茶。 「いかにも紅茶」といった感じなので失敗が少ない。 さもなければ、 アッサム茶。 この辺なら好き嫌いなく飲めるはずだ。 次に無難なのが、ダージリンだが、標準的な味ではない。 もちろん、ダージリンは紅茶の王者とも言える味なので、 飲んで損はしないだろう。

有名なわりに勧められないのが、アールグレイ。 これは、フレバリーティーなので、TPO を選ぶ必要がある。 それに、 柑橘類の皮のつんとした香りが結構きついので、 蜜柑をむいた時の皮の匂いに弱い人には勧められない。 くどいようだが、 いきなりフレバリーティーから入るのは、 結構リスクを伴うということに注意しよう。 また、 メーカごとに味が違うのも、アールグレイの特徴。 さすがに、トワイニングだと、アールグレイでも癖のない味だが、 フォートナム・アンド・メーソンのアールグレイだとかなり癖があって難しい。

アールグレイの話はこの辺にしておこう。結構奥の深いお茶なのできりがない。

このように、 フレバリーティーは選択が難しいのですすめないが、 どうしてもというのなら、 アップルティーが無難だろう。 フォションのが一番癖がないし、 どこでも手にはいる。

お茶のいれ方

良く注意すると、 缶にいれ方が書いてある場合が多いし、 知っている人も多いはずだ。 だからここでは簡単に済まそう。

  1. お湯をわかす。 別に水道水で構わない。 なお、沸かしてしまった水は、 いけないらしいので注意する。 「らしい」と書いたのは、 私が何度も沸かした水でお茶をいれたことがないためで、 他意はない。
  2. ポットにリーフをいれる。 一番の注意点は、リーフを多めにいれること。 ここでケチると絶対に失敗する。 よく、ポットのために、 スプーン一つ分余計にいれると言うが、 これはリーフをケチるなという意味なので、 小さなスプーンを使っているなら、 相応の配慮が必要である。
  3. お湯が沸いたら、 リーフの入ったポットにお湯を注ぐ。
  4. しばらく、時間をおく。 この時間はケースバイケースなので、 こればかりは試行錯誤で自分の好みの味になる時間を会得するよりない。
  5. ポットの中をかき回す。 日本茶は振るなというが、 紅茶はスプーンでかき回してから飲むのが普通。
  6. 正式には、ここで別のポットにお茶を移す。 ただし、私はこれを省略している。 だから、私の飲み方は正式ではない。
  7. カップに注いで飲む。

浸出時間

よく三分とか五分とか言われるが、 好みとリーフに依存する。 が、それでは当惑するという人もいるかと思う。 そういう人のために、 独断で五分ということにする。 かなり渋くなる場合もあるが、 これなら『色のついたお湯』だけは避けられる。 渋いのも味のうちである。 繰り返すが、リーフに依存するので、 リーフが細かいのなら、 浸出時間も短くする必要がある。 逆に、リーフが大きければ、開くまで待つ必要がある。 ただ、あまり時間を置きすぎると渋くなると言って嫌う人もいる。

この時間は本来時計で決めるものではなく、 味で決めるものだ。 専門の紅茶店だと、時間をはかるのは大雑把な目安で、 最終的には味見をして客に出すらしい。 このほかに、 自分の経験で言うと、 大きなリーフの場合には、 ポットをのぞいてみて、 リーフの開き具合で、決めることも出来る。

飲み方

飲み方は勝手である。

しかし、そう言ってしまっては、いれ方も勝手であり、どうでもいいことになってしまう。 これは即ち、 この文章自体が無意味ということになってしまう。 実際そうなのだが、 今更そういうメタな落ちをつける訳にもいかないので、 教条的な飲み方を書こう。

よく、レモンティーはいけないといわれるが、 試したことがないので分からない。 それに、今の飲み方を変える気はないので、 控え目に言って、 あえてレモンをお茶に浮かべる必然性は考えられない、 ということにしておく。

ところで、映画の 『タイタニック』 で、 登場人物がお茶を飲んでいるシーンが結構あったが、 みんなソーサーにレモンの輪切りをのせていた。 タイタニック号は、 アメリカ発の客船なので、 アメリカの習慣にのっとっているのには、 不自然さはないが、 上流階級の人間が揃いも揃ってああしているのは、 なんかおかしいような気もする。

私は何もいれないで飲むが、 イギリスに住んでいる知人のうちでお茶をご馳走になったときに、 本来の味はミルクと砂糖を入れないと出ないと言われた。 だとすれば、 この点でも、 私の飲み方は邪道ということになる。

しかし、 すでに教条的に飲み方を書くと書いた手前、 続けて書くより他にないようだ。 で、おいしい紅茶の飲み方だが、 何も入れずに人肌程度に冷まして飲むのが一番いいと思っている。 砂糖を入れなくても、 とろりとした甘味があり、 なんとも言えない味になる。 あまり熱いと味がしない。

ただ、 こういう飲み方を意識して行っているわけではない。 大きなポットでいれて飲んでいると、 最後には冷めて来て、そんな状態になる。 そのために、ポットからリーフを取り除かないのである。

そのポットの最後の一口だけがとてもおいしい。 それは残念なことにポットにつき一口分しかなく、 そして、その一口を再び飲むためには、 ふたたびポット一つ分の紅茶をいれないといけないのである。

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