天使の食べ物
今日もまた
御主人様に紐で繋がれ
引き摺られながら附いて行く
鳥篭の中の
醜いアタシ
与えられるのは
水と体罰
僅かな苦痛と
多少の快楽
飛立つ事さえ
許されぬ
真綿に押し潰される日々
アタシが他人に誉められた日は
酷く激しく罵って
余所で少うし御喋りすれば
短剣で身を切り裂いて
だのに
其の後
決まって必ず
真赤に染まったアタシに向かって
『綺麗ダヨ―――』
と
頬擦りをして
『ボクノ天使―――』
と
抱き締める
狂った瞳の御主人様
嗚呼御主人様
アタシには
頬をザラリと舐められる
其の理由が判りません
唇を重ね合わせる
行為の意味も知りません
けれども其等は御主人様が
良い事で在ると云ったので
きっと良い事なのでしょう
『ボクハ嘘ナドツカナイヨ―――』
何時かそう聞かされたので
御主人様の云う事は
総て真実であるのです
だから
どんなに醜くとも
『綺麗ダヨ、キレイダヨ―――』
御主人様が云われるので
アタシは綺麗なのでしょう
『倖セダネ、シアワセダネ―――』
手足には枷が有るけれど
アタシは倖せなのでしょう
『ボクノ天使、ボクノテンシ―――』
背中に羽根は無いけれど
アタシは天使なのでしょう
天使は下界に降り立つと
汚れた空気で羽根が腐って
天へ還れなくなるそうです
だから
自分を愛してくれる主に
か細い腕でしがみ付き
注がれる愛で羽根を清めて
心を喰らって生きるのです
主の心が揺らがぬように
甘い蜜に毒を混ぜ
頭の中を麻痺させて
自分の為に存在す
狂った瞳を得るのです
嗚呼御主人様
やっぱりアタシは
愛を心を喰らって生きる
か弱い天使なのですね
アタシの為に存在す
狂い狂った御主人様
其の心だけが糧だから
御主人様の咽元を
例えばアタシがかき切れば
濁った瞳に見つめられ
アタシも死に逝く事でしょう
だから
狂った御主人様の
心が離れて行かないように
手枷を附けられ
翼をもがれて
鳥篭に縛り附けられても
アタシは毎日
可愛い顔で
真赤に笑えばいいのです
例えこの身に注がれるのが
歪んだ愛であったとしても