髪桜





願わくは
桜の下にて
春死なん
その如月の
望月の頃





桜を見ると
死にたくなるのです

美しく咲く桜を見て
涙を流し
死にたくなるのです

だから

美しい桜の咲く
その幹から伸びる一つの枝に
私の髪を
少しばかり
括り付けて置きました



零れるほどに
たわわに咲いた花びらは
指先が僅かに触れるだけで
吐息が掛かっただけで
はらはらと
散ってゆきました


肩に落ちた一枚の花びらを
その一枚を
食べました


この桜が
総て散り落ちれば
私は
桜になるのです

花びらが散ると
私もその花びらの様に
はらはらと
風に流され
散ってゆくのです

風に舞い
天に昇り
桜の天女になるのです

桜色の衣を纏い
薄紅の頬をした
桜色の唇の
白い天女になるのです





願わくは
桜の下にて
春死なん
その如月の
望月の頃





桜を見ると
死にたくなるのです

太い幹に縄を掛け
首を括りたくなるのです

桜の咲いた崖に向かい
飛び降りたくなるのです

それは

桜が
呼ぶからなのでしょう

手招きをするように
花びらを散らして
そういう衝動を
起こすからなのでしょう



咲き狂う花達は
その元へ人を誘い
心を奪い去って
狂わせてしまうのです

ここぞとばかりに咲く桜に
狂気さえ
感じるのは

花達は
咲いて狂うのではなく
咲く時に
既に狂っているのです

風が吹かずとも
己の花びらを舞い散らせ
踊り狂うのです

その踊り狂う桜の下で
一面に舞う花びらに魅せられ
私は
踊り狂って
桜になるのです

身を切れば
きっと
桜色の血が
たらたらと
流れるでしょう



美しい桜の咲く
美しい山野で
狂った桜に酔わされて
私は
踊り狂って
唄を口づさみ
白い着物を着た
桜色の
天女になって
散って逝くのです



桜の花の散る頃に





願わくは
桜の下にて
春死なん
その如月の
望月の頃






涙ガ頬ヲ流レタラ 一緒ニ御家ヘ帰リマセウ