罪なイタズラ =2=





しばらくすると、飲み始めて(鼻ではないが)
赤くなっていたチョッパーが突然そわそわし出した。



「・・・あら?どうしたの、トニー君」
「・・・!!・・・いや、なんでもねぇ・・・」

そう濁して、チョッパーはさり気なくナミの元へと寄って行った。



「・・・おいナミ、サンジが帰ってくる・・・!!」
「え?・・・あぁ、あんた匂いで判るのね」

そこまで言って、ナミはあることに気付いた。

チョッパーの嗅覚が動物並(いや、動物だが)なのなら・・・、もしかすると――――



ナミの整った口角が、不敵に持ち上がった。



「・・・ねぇ、あんたの鼻って、どれくらい良くきくのかしら?」
「さぁな・・・。詳しい事はよくわかんねぇけど、ルフィよりきくと思うぞ」

「そう・・・。・・・・・それなら、サンジくんのフェロモンも
 か〜な〜り〜〜っっ、『感じ』ちゃうんじゃないのぉ?」

「・・・・・!!!」


わざと、流し目でいやらしく放たれたナミの言葉に、
チョッパーは眼を丸くして絶句した。


同時に、自分の体温、いや、顔の表面温度が少し上がっているのに気付いた。

酔いは先程のナミの言葉で一気に醒めてしまったので、これはきっと別モノであろう。
しかも、心拍数も上がっているような気もする。

気にすれば気にするほど、脳細胞はサンジに支配されて行くようで。



「お――いっ!待たせたなぁ――っ!!」


しばらく甲板から消えていた笑顔が、再び戻ってきた。
腕と頭につまみの乗った皿を乗せ、華麗に2階から飛び降りる。

それに引き寄せられるように、チョッパーはサンジの足元へ歩を進めていた。
その行動はもう、彼の思考で制限出来る範囲ではなく。


「・・・・・さ・・・サンジ」
「ん・・・?おぉ、チョッパーじゃねぇか。何だ・・・?」



ご丁寧にも目線まで合わせ、優しく向けられたその笑顔は


野郎に向けるには少々もったいないほどに、曇りのない爽やかな笑顔。
チョッパーは思わず、その完全な美しさにしばし眼を奪われてしまった。



心臓が騒ぎ出す感覚がある。
必死で捕まえていた冷静な自我も、少しずつ侵されて行く。



「・・・あ、いや・・・っ!別に・・・」
「ははっ。・・・そんなこと言って、狙いはコレだろ。今日のはな、特別美味くできたんだ」
「えっ・・・。あ、あぁ・・・うん・・・・」

サンジが嬉しそうに笑うのが見えた。舌が少しもつれるのがわかった。

あぁ、ちくしょう――――――まるでナミの思うツボじゃねぇか、これじゃ。



・・・・・・でも、もういいか。


あっという間に残りの思いを投げ捨てれば、サンジがもっと綺麗に見えた。
言葉にするのも惜しいぐらいに、こう・・・何ていうか・・・・・あぁ、ダメだ。


フライにされたししゃも大の魚を、サンジは一匹つまんで
チョッパーの口元へと運んでやった。

チョッパーは頭からそれを食べる。やっぱ美味いな、その認識はまだ出来た。


魚の尻尾をつまんでいたサンジの指が、一瞬だけチョッパーの舌先に触れた。
サンジはくすぐったそうに微笑んで、それから残った部分を自分の口に放り込んだ。


「・・・美味いだろ?」 「あぁ・・・。すっげー美味い・・・・・」



また目線が合う。 笑う。
―――――――ノックアウト、俺の負け。あーあ。






御帰リナサイ御主人様 私ノ愛シイ動カヌ人形