狙撃手の悲劇
昼食後1、2時間した、ゴーイング・メリー号のキッチン。
そこには、一仕事終えたコックと、
新兵器『目潰し コショウ星』開発中の狙撃手がいた。
ウソップは、素材がコショウだけではもの足らず、
他に何かないか。と、天才料理人サンジに聞きにきたのだ。
おもしろそうだな、それ。と、興味を示したサンジは、
待ってろ、とだけ言い、テーブルの上に、
さまざまな調味料や香辛料を並べていった。
「おぉ!ウソップ、ここにいたのか!!」
元気にドアを開けてキッチンにやって来たのは、
この船のキャプテン、ルフィであった。
「ん?ルフィ、俺になんか用か?」
「あぁ!!そうだ、サンジもちょっと聞いてくれよ」
そして、何のためらいもなく、ルフィはこう言い放った。
「なぁ、どうしてウソップは襲われてないんだ?」
「・・・はぁ?お前なに言ってんだぁ!?」
ルフィの言葉が理解できずに、ウソップは目を丸くしてルフィを見ている。
それに対してサンジは、
「そういやぁそうだ。ゾロも手ェ出してねぇみたいだしな」
などと言って納得している。
「おいサンジ!納得すんなっ!それからルフィ、んなこと当たり前だろうが!!」
そうつっこんだものの、正直ウソップも気にはなっていた。
ウソップもナミも、この船の男達の事情はもちろん知っている。
「テメェのせいで朝っぱらから腰痛くて機嫌悪りぃのに、
イラつかせんじゃねぇよ!クソ野郎!!」
「あぁ!?じゃあ、よがって『もっと』連発してたのは、
一体どこのどいつだってんだ!?このエロコック!!」
とんでもない内容なのに、何の恥じらいもなく頻繁に行われる、
サンジとゾロの騒々しい喧嘩。
「なぁサンジ、一緒に風呂入ろうぜ!」
「今晩は仕込みで忙しいから、ゾロにしてくれ」
「えぇ〜・・・、だってゾロ、入れてくれねぇんだもん」
「そんなの別にいいだろ。それに、
テメェは俺に入れる方だろうが。この絶倫ゴム人間め」
何気なく交わされる、サンジとルフィのとてつもない会話。
こんな以上事態、気づかないほうがおかしい。
でもウソップとナミは、結構この男達をおもしろがって見ている。
しかし、やっぱり気になる。
出してほしくはないが、どうして自分は手を出されないのだろう。
「サンジ、なんでだと思う?」
「俺が思うになぁ・・・、ウソップ!お前には色気がねぇっ!!」
そう言って、サンジはウソップ(の鼻)を指差す。
「色気ぇ!?んなもん俺にあるかよ!!
第一俺にはなぁ!カヤっていう、大事な人がいるんだよ!!」
ウソップは、今にも鉛星、もしくは火炎星を繰り出しそうな勢いだ。
その様子を見て、サンジの口元は意地悪くゆがんだ。
怒り狂うウソップのスキをみて、サンジはウソップをイスに押しつけた。
そして、攻撃できないようにバッグを素早くひったくると、
いやがるウソップの手を強引にイスの背の後ろに回し、
ネクタイを引き抜いてイスと一緒に縛ってしまった。
「サンジ!!?おっ・・・お前・・・!!な、なにすんだっ!!
ネクタイほどけっ!ルフィも見てないで助けろぉっ!!」
取り乱すウソップを眺めてサンジは満足げに微笑み、ルフィにむかって言った。
「ルフィ、試しにキスしてみろ」
「はぁっ!!?サンジ、お前何考えてんだぁっっ!!」
焦るウソップ。
「キスかぁ〜。いいかもなぁ、それ」
喜ぶルフィ。
「だろ?ほらルフィ、急げ!ナミさんが来ちまったらどうしてくれる」
急かすサンジ。
「よっしゃ!サンジ、まかせろ!!」
言うが早いか、ルフィはウソップの脚の上に座る。
もちろん、向かい合って。
「う・・・うわああぁぁぁぁぁっっっ!!!ナ・・・ナミ・・・・・」
助けてくれ。と言う前に、サンジに口を押さえられる。
「ルフィ、早くしろよ」
「う〜ん・・・、ウソップの鼻、邪魔なんだよなぁ・・・。
まぁいいや。サンジ、手ェ放せ」
サンジは、ウソップの口を解放してやった。
すると、素早くルフィがウソップの鼻をつかんで、
ぐい、と少し上を向かせる。
サンジとルフィは、にっこり笑顔でこう言った。
『準備OK!』
「――――――――!!!!」
ウソップの無言の叫びは、誰に届く事もなかった。
抵抗する術もなく、ウソップの唇は奪われてしまったのだ。
しかも、あろうことか、野郎に。
「ごちそうさまでした」
ルフィがウソップに言う。
キスさせてもらったら、『ごちそうさまでした』と言う。
これは、サンジがルフィにしつけたことだ。
「・・・・・・・・・・」
ウソップは、怒りや驚き、絶望etc...の混ざったような顔で、
じっと黙り込んでいる。
「ルフィ・・・、ウソップどうだった?」
サンジはルフィに、ウソップの感想を聞いた。
「う〜ん・・・」
ルフィはしばらく考えてから、サンジの白い首に手を回して抱き寄せた。
そして、ウソップの真ん前で、熱いキスを交わす。
ルフィは、ニカッと笑って言った。
「・・・やっぱ、ウソップよりこっちの方がいいや」
「だろ・・・?」
ルフィの最高の誉め言葉に、サンジも満面の笑みで答える。
ウソップは、ただ呆然とするしかなかった。
目の前でイチャつく麦わらと金髪に、
そして、さっき身に起こった、紛れもない事実に。
「ウソップ、乱暴して悪かったな」
サンジが、ウソップの手首に巻かれたネクタイをほどきながら言った。
「おう!でも、サンジに教えてもらえばなんとかなるぞ!」
ルフィも、ルフィなりの言葉をかける。
(もちろん、謝罪の気持ちなどというものは、全く含まれていなかったが)
「じゃあ、俺ら部屋いくから。ルフィ、今日は俺の番な?」
「んー・・・、じゃあ、みかん食わせてくれたら考えてやる!
んじゃウソップまた後でな!」
「・・・テメェら、闇討ちしてやる・・・」
その声が彼らに届いたかは分からないが、
陽気な2人の笑い声が、しばらくキッチンまで響いていた。
しばらくして、何も知らないナミがキッチンにやってきた。
「サンジく〜ん、おやつ作って〜・・・って、ウ、ウソップ?!」
そこには、ただの目潰し星を作るとは思えないような材料を使い、
滝のような涙を流して新兵器開発に没頭する、
悲しくも情けない狙撃手の姿があった。