上手な文章の書き方

インターネットのテキストサイトの掲示板を見ていると、 「上手な文章の書き方を教えてください」 という質問をまま見かける。 それに対する答えは、決まっていて、 「上手い文章の書き方なんてありません」 というのが相場である。

また、 「文章の書き方」 なるタイトルで始まるテキスト類も、 普通こういったやりとりから始まるものが多い。

こういった一般論に対して異論を唱えるつもりもないし、 事実そうだと思うのだが、 そう決めつけてしまっては身も蓋もない。 そこで、今日は、筆者が秘蔵している 『上手な文章の書き方』 から文章作法の奥義を披露することにしよう。

道具を用意する

なにごとにも道具は必要である。

文章を書くのにパソコン以上のものが必要なのかと、 不審に思われるかもしれないが、 いい道具を手に入れずして、いい文章は書けない。 もっとも、 インターネットのテキストサイト開設者のための講座なので、 なにも、紫檀の机に、モンブランの万年筆などを用意せよというつもりはない。 用意するのは、 執筆に適したテキストエディタとかな漢字変換プログラムである。

まずはテキストエディタを選ぶ。

抑制のきいた文章を書こうと思うのなら、 高性能のテキストエディタを用意してはいけない。 すらすらと、テキスト打ちに専念できるエディタなど、 ぺちゃくちゃと喋れる電話機のようなものであって、 良質の文章を書こうと思うものは、 高性能のエディタを遠ざけるぐらいの心がけがほしい。

で、筆者のおすすめは、 MS-DOS プロンプトの type コマンドである。 使い方は次のようにする()。

C:\> type con > text.html

これでテキストを書く際には、 一期一会の覚悟でテキストを書く必要がある。 ためらいは許されない。 なぜなら、前の行を修正することはこのエディタでは不可能だからだ。

したがって、 これを用いれば、 昨今ありがちな、 無意味に饒舌な文章、あるいは、 無駄な表現がてんこ盛りになった文章から訣別できる。 書きたくて書きたくてうずうずしがちな 日記ジャンキーを自任される向きには是非ともおすすめしたい。 テキストエディタの逸品である。

次に、かな漢字変換のチョイスに移ろう。

多くの人は辞書の語彙の多寡で かな漢字変換を選ぶために、 自分では書けもしないような文言を、 だらだらだらだらと書き連ねてしまう傾向が多い。 そこで、 なるべく語彙数の少ない かな漢字変換を選ぼう。 このような かな漢字変換を使うことにより、 漢字とかなのほどよい調和のとれた文章を手にすることができる。 Windows 系 OS では、思いつかないが、 Linux あたりの Canna などは、 辞書に登録されているのは、最小限の単語のみで、 誤変換の余地もないほどだ。 誤変換に悩む諸君には、おすすめである。

構成を考える

次に文章の構成について考えることにする。

まず、 文章を構成する単位となる段落から考える。 慣れるまでは、一段落あたり 128 文字以下と決めるのが無難であろう。

次に、一つのテキスト中での 段落相互の関係をどうするかが重要になるが、 これは、ランダムに接続語を選び、それを段落の先頭に配した後、 文章を書きはじめると無理がない。

例えば、 先頭から順に、 『先日』、『ところで』、『しかし』、『したがって』、『そういえば』、 『とどのつまりは』、『結論を言えば』 などという書き出しの段落を配置するようにする。 そんなことができるのかと、いぶかしむ読者もいるだろうが、 雑文祭などで与えられる縛りの一種と考えれば、 そんなに負担にはならないはずだ。 ちょっと、これで文章を書いてみよう。

先日、ある読者からメールをもらった。 どうも私の雑文の内容に間違いがあるとのことである。

ところで、私は空腹であった。 ちょっと何か食べないといけないと思い、 買い置きの食品はないかと探してみた。

しかし、いっこうに何も見つからない。 困ったことだ。

したがって、私はメールに返事を書くのをうっちゃって、 コンビニに行くことにした。深夜のことである。

そういえば、私は深夜にしか買い物に行かない。 これはどうしたことかと考えてみた結果、 どうも生活のリズムが狂っているのだと結論せざるを得なかった。

とどのつまりは、昼間は寝ており、夜は起きているということである。 道理で買い置きの食品などないわけだ。

結論をいえば、私はメールの返事を書くよりも、 さっさと水でも飲んで、 寝てしまった方がいいということになる。 そうだ、それがいいに違いない。 私は、踵を返して下宿に戻り、 布団をかぶって寝ることにした。

こういう一見ランダムに決めた接続詞だけでも、 一篇の物語が出来てしまう。 文章の構成に悩んでいる方々には、 是非とも、 試みていただきたいと思う次第である。

接続語に熟達する

さて、段落相互の関係をはっきりさせるには、 接続語の使い方にポイントがあると思った読者も多いだろう。 問題は、どんな接続語を使うかである。 これこそが、文章作法の要諦といえる。 当然、そういったことを一口でいうのは難しいのだが、 ここは特別に、 初心者でも失敗しない接続語の使い方を述べることにしたい。

とにかく、初心者にはあれこれ迷わず、 『突然だが』、 『ところで』、 『話は変わるが』、 『それはさておき』、 『そういえば』 といった言葉だけを使うように心がけることをおすすめしたい。 例を示そう。

突然だが、 今日は私が聡子とホテルへ行ってしたことのすべてを読者諸氏に披瀝したく筆を執った次第である。

それはさておき、 フェルマーの定理と谷山の予想について説明する必要があろうかと思う。

ところで、 最近の若者には人に頭を下げるような職業は嫌われていると聞く。 嘆かわしいことだ。

話は変わるが、 狂牛病に対する農水省の甘い認識はどうにかならないものだろうか? おや、ここで紙枚も尽きたようだ。 ここで、私の告白手記の終わりとしたい。

ご覧の通り、 あらゆる文章をこの方法で書くことが可能である。 色々書きたいことがあるが、 うまくまとまらないとお嘆きの貴兄におすすめである。

書き出しで読者を魅了する

書き出しは肝心だ。 これに失敗すると、最後まで読んでもらえない。 そこで、ここでは読者を魅了する書き出しを考えよう。

実は、読者が惹かれるテーマは決まっている。 エロ、グロ、ナンセンスが相場であろう。 これらを駆使して書き出すことで、 読者の注意をテキストに惹きつけることができる。 ただし、 読者は想像以上に短気である。 これは肝に銘じるべきことがらであって、 もったいぶって、もりあがりを先延ばしにすると、 飽きられてしまいかねない。 そこで、書き出しにクライマックスを配するようにする。 例えば、次は典型的なエロを駆使した書き出しである。

「あっ」と叫んで、千恵子は私の背中に爪を立てた…。

それから、三十分後、千恵子と私は会計をすませてホテルを出た。 つい正直なところが、私の口から出た。
「今日は金曜日か。道理で、値段が高いわけだ」
「あなたって、しみったれた人ね。 そんなにうじうじとホテル代のことを考えているのなら、 私が立て替えてあげるわよ」
「いや…。いいよ。しかし、給料日まではまだ十日もあるな」

その日、私はペヤングソース焼きそばを食べた。

次の日には、カレー・ヌードルを食べた。 千恵子とのホテルでの逢瀬は、 仮借なく私の懐をたたきのめしたのであった。

その次の日は、 若鮎のようにぴちぴちとした千恵子の肢体に思いをはせながら、 シュリンプ・ヌードルをすすった。

翌日には、 千恵子の乳首を吸うが如くに、 『赤いきつね』の麺を吸った。 ああ、あの感触は忘れられない、 私は、千恵子の体を俄に思い出し、懊悩し、 自分の手で果てた。 ところで、明日は『みどりのたぬき』だろうか?

………

これは、給料日までカップラーメンで過ごした男の話である。 もしも、まともに書いたら、誰も読んでくれないだろうが、 こういう書き出しにすれば、読者は最後まで読むだろう。 なお、書き出しだけでは持たないので、 所々に読者を引っ張るための描写をいれてある。 こういった工夫を臨機応変にとりいれることで、 カップラーメンを食べるだけの話を、 起伏にとんだ物語に仕立てることも可能である。

おや? 文章作法の奥義の一端を記しただけで、 紙枚もつきてしまったようだ。 この続きは、また次回ということで、 今日はこの辺にしたい。


※注意※ このようにすると、 上記のファイル text.html の内容はすべて消えてしまいます。 これを試みる際には、 壊れてもかまわないファイルを使いましょう。 また、終了するには、コントロールキーを押しながら Z です。

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