もう、夜明けじゃないか…。 いったいなんでこんなことになったんだろう。 もう、何時間も僕は監禁されている。
あれは昨日の昼ちょっと前だった。 おじさんの家に遊びに行こうと思って、 バスに乗った。
バスがまだ街の中を走っているうちは、僕は座れなかった。 しょうがないから、運転席の料金箱のあたりに立っていたんだけど。 駅の停留所に止まった時に、 どこかのおばさんが、僕にぶつかって来た。 降りるのを急いでいた様子だった。 僕が悪いわけじゃなくて、向うからぶつかって来たのに、 そのおばさんは、 「気をつけなさいよ。危ないわね。」っていって、睨みつけた。
もちろん、僕は何も言わなかった。 本当なら、僕が文句を言ってもいい筈だったんだ。
とにかく、駅の停留所で沢山の人が降りたから、 やっと、僕は運転席のすぐ後ろの席に座れたけど、 理不尽に罵られたことばかり考えていた。 悔しくて悔しくて、しょうがなかった。 なんで、向うからぶつかって来たのに僕があんなこといわれなきゃいけないんだろう? なんで、一言もあやまらないんだろう? いつも僕は、こうなんだ。 自分が少しも悪くないのに、 どなられたり、 叱られたり…。 学校でなんか、いつもこの調子だもんな…。 隣の席の奴が話かけてきたのに、 先生に叱られるのはいつも僕ばかりだし…。 いつもいつも、僕はこうなんだ。
そのうち、おじさんに渡すように預って来た包丁を振りあげて、 僕は何かを叫んでいた。
よくあるんだ。 頭の中で、考えていたことや、空想していたことが、 口から出てしまうことが…。 学校でもよくこれをやってみんなに笑われたり、 叱られたこともあったっけ…。
でも、今度は違った。 みんな僕のいいなりになった。 でも、逃げたいのに逃げられないのは僕なんだ。 こんなところになんか、いたいわけじゃない。 あのとき、そんなことをやめなさいって誰かが言っていたら、 僕だって、素直にあやまったのに。
そして、今は、どこかの街の広場にとまっている。 周りにはパトカーが沢山とまっている。 僕はというと、何人ものおばさんたちに睨み付けられて、 身動き一つとれない。 みんな凄い形相だ。 あの駅の停留所で、僕にぶつかったおばさんと同じ顔だ。
眠い。眠い。でも、 ここで眠ったら、 あのおばさんたちに何をされるかわかったもんじゃない。 絶対に眠ったら駄目だ。 眠ったら駄目だ。
あ。 窓ガラスを破って、助けが入って来る。 ああ、危ないところだった。 これで、助かる…。