ばらばらと、また雨が降りだした。 西暦で言うと、 日本時間の 2001 年 9 月 11 日の午前 8 時である。 アメリカなら、まだ 9 月 10 日だ。 もっとも、俺は胸くその悪い西暦なんぞ普段は使っていないが。
胸くそが悪いと言えば、 この国は一体なんなんだ。 俺は日本語はわからないが、街角には、 へそまで出した裸同然の女が、ふ抜けた男にぶらさがり、 奇怪な化粧をした女子高校生であふれている。 どいつもこいつも、顔はつるつるして薬缶のようで、 100m も歩くと反吐が出そうになる。
テレビをつければ、裸ばかり、 雑誌を見れば、一糸纏わぬ、それこそ、性器を露出した女の写真ばかりで、 インターネットを見れば、 セックスの交合の瞬間の写真まで取り締まられることなくたれ流し。 なんという、腐りきった国だ。 アメリカも腐った国だが、 この日本という国はアメリカに輪をかけて腐っている。 いや、その腐れ犬のアメリカだって、まだまだ見所があるくらいだ。 なんであれ、戦うということを知っているからな。 ところが、この国と来たら、 誰も武器をとって戦おうとしない。
いい年したおっさんたちは自分の娘のような高校生とのセックスのことばかり考えて一日を過ごし、 若い男も、女のケツばかり追い回して、 中にはインターネットで、セックスの一部始終を報告している馬鹿もいるほどだ。
やっぱり、インターネットもテレビも禁止すべきものだ。 それに、女が体の一部を露出させるのもいけない。 顔だって、二の腕だってだめだ。 少しずつ、少しずつ、露出するようになって、 最後には、 この国の週刊誌のグラビアのように、 性器そのものまで露出するようになるのが落ちだ。
宗教も宗教で、腐っている。
この国には、驚くことに、 八千万の神がいるという。 気違い沙汰としかいいようがない。 神は唯一アッラーのみなのに、八千万ときた。 邪教の多神教も数多く存在するが、 ここまで堕落して、下らない宗教など初めてだ。
かってこの国を蒙古軍が襲った時に、 台風で蒙古軍が全滅に近い被害を出し、 占領を免れたことがあったらしい。 以来、 このふぬけた国の国民は、 神風が吹いたといって、 国難は全部その禍々しい神々が防いでくれると思っている。 信じるだけにすればよかったのだが、 馬鹿なことに、 今度も神風が吹くだろうと思いこんで、 アメリカ相手に戦争を仕掛けもした。 もっとも、その戦争は惨敗で、 以来、この国はアメリカの犬となり果てたが。
しかも、その馬鹿げた邪教だけを信奉するのならまだわかるが、 キリストの誕生日には、クリスマスといって、大騒ぎする。 キリスト教徒でもないくせに、手に負えない連中だ。 しかも、祈りをささげるでもなく、 またしても、女とセックス三昧、 揚げ句の果てには、 何の関係もないのに 『クリスマス雑文祭』 などという理解に苦しむ催し物まで企画する始末だ。 キリスト教も邪教だが、 お前らには、その邪教のお祭りに参加する資格もない。
こういう下らない腐った国は焼くに限る。 どうしようもない、腐った国だ。 焼いて消毒するしかこの国の再生はない。
都合よく、この国の役人どもは、 狭い国のくせに、ぼこぼこと原子力発電所など建ててくれた。 自分の国を焼き尽くし、 消毒するための炉を用意するとは馬鹿な国の割には気が利いている。 しかも、狭い国なのに、ぶんぶん飛行機まで飛ばしている。 まったく、おあつらえむきだ。 俺と同士とで、その飛行機を使って、炉に火をくべて、 この不潔な腐臭を発した国を消毒してやるからな。
畜生。なんだ、この天気は。 朝からずっと雨だ。 テレビを見たら、渦巻の描いてある天気図ばかりじゃないか。
だいたい、俺はこんな天気は大嫌いだ。 じめじめ、雨が降って、気持ち悪くなりそうだ。 俺の国はからっとしていて、こんなに不愉快な気候じゃないぞ。 やっぱり、なにからなにまで、この国はダメだな。
もう、昼だ。俺が乗るはずの飛行機はまだ地上だ。 どうも、台風 15 号が接近しているために、 日本全土が暴風雨圏に入って、飛行機が飛べないらしい。 畜生。 いまいましい台風だ。 明日、別グループの同士が、アメリカを攻撃する。 その前哨戦に、アメリカの飼犬の日本を焼き払うつもりだったのだが、 この台風ではいつ飛行機が飛べるかわからない。
そうか。 これが、このだらしない国の連中が信じている『神風』って奴なのか? いや、そんなことを信じてはいけない。 神はアッラーだけだ。 ジハードはうまくいくに決まっている。
西暦 2001 年 12 月 2 日、 警察庁の某公安組織の課長、稲垣和馬は、調書を閉じた。 机の前には、課長補佐の宮田が立っている。
「宮田君。ご苦労。これが、日本で飛行機をハイジャックし、
特攻テロを行おうとしたテロリストの自白調書だね?」
「はい。課長」
「で、このテロリストは、今はどうなっているかね?」
「飛行場での特殊部隊による身柄拘束後、
日本神道に改宗したいといいだしまして…。
まあ、別に、改宗といっても信じればいいだけなので、
そういってやりましたが」
「神風かぁ…。確かに、台風 15 号が来なかったら、
連中のテロは成功していたな。
しかし、いくらなんでも、神風とは…。
神がかり過ぎだな」
「で、その後、極秘裏にアメリカ中央情報局に身柄を引き渡しました」
「ご苦労さん。あ、それから、
各種の拷問と自白剤の使用に関することは伏せておいてくれ」
「承知しました」
「どれ、今何時だ?」
「今は 18 時です。一杯やって帰るのなら、お付き合いしますが」
「うむ。『クリスマス雑文祭』宣伝祭の締め切りには、まだ間に合うな。
今日の 20 時から、いよいよ
『クリスマス雑文祭』も始まるし、
今日は早めに家に帰って、雑文でも書くよ」
「ああ。課長の御趣味の雑文ですね。
ところで、この前の『内親王』面白かったですよ」
「ん? 君に私のサイトの URL を教えたおぼえはないが…。
そうかあ…。テンペストを使ったんだな」
「あ。すみません。上層部から、命令されているもので。
実は私が課長の係りなんです」
「いや。気にせんでいい。
お互い、退官まで、無事にいたいな」
「ええ。ところで、この調書ですが、どうします?」
「一応、長官室の金庫に保管することになっている。
まあ、マスコミに公開されるのは関係者が退官した後だな。
何十年も先の話さ」
「なるほど」
「では、宮田君。失礼するよ。早く家に帰らないと、
『クリスマス雑文祭』に出遅れるからな」
「お疲れさまでした」
稲垣は帰り支度をしながら窓のほうに目をやった。 冬にしては珍しく、強い雨が降りはじめていた。
ばらばら